ごおふぉおとおろおう゛ぉお

ワタル&つうかあ&キカイダー番外編

投稿日時 2020-1-7 1:44:07
執筆者 gf-tlvkanri
本作は2次創作。
Fani通2018年度下半期号に載っている、
ソラウミあり版と同時にFani通編集部へ提出したもの。
元々こちらを作成中に、広井王子(敬称略)つながりで、
ソラウミを絡められると思い、両方を作成し提出した。
そしてFani通に載らなかったこちらを公開することにした次第。

いつも通り、全角40字/行で表示すると、
当方の想定する折り返しと改行での表示になる。
全角40字/行で約780行(参考資料記載込)。

では、数行の改行の後に本編スタート。



あらすじ
 マン島についたゆりとめぐみ。マン島TTコースのチェック走行中に、扉の陽炎のようなものに突っ込んでしまい、見たこともない世界へ。はたして元に戻れるのか。

序 ゾーアイ界へ
 根本がマン島にかかる虹、そんな虹がかかった。しかし、ただの虹ではない。その虹の青と赤の外側には白と黒が存在していたのだ。
 ゆりとめぐみは明日葉丸でコースチェックの流し走行を終え、一息つこうとしていた。
棚橋もパートナーを見つけ、マン島へ来ているという。2人は共に棚橋のことを考え、今度こそ「コーチと恋人になる!」と密かに息巻いた。
再度明日葉丸を繰り出し、コースを辿りなおす。だが、先程のチェックにはなかった違いが、虹によって生じていた。
「何、あれ!?」
直線でフルスピードを出していた上に、どう対応しても回避は間に合わなかった距離。そんな距離に、その違い、いや異変というべきだろうか。虹の七色の他に白と黒の9色によって構成される扉の陽炎のようなシロモノに突っ込んでしまった。
「何やってんのよ!」
「しょうがないでしょ!気が付いたらどうやっても回避できない状況だったんだから」
2人はヘルメットを外しながら、そんなことを言い合った後。まわりの様子を見た。

「ここ、どこ?」
めぐみが呟く。
「マン島じゃない、ってのだけは確かだと思う」
ゆりがめぐみに対して呟き返した。
目の前は草原が広がり、ずっと向こうには森が見える。
「もしかして、異世界に来てたりして」
「……案外当たりかも」
めぐみの冗談めいた言葉に、ゆりは真剣味のある返事をした。
その様子にめぐみは軽口を叩く気もなくなり、口を閉じた。
「ほら」
ゆりが指を指した先には、村があった。RPGに出て来そうな村の雰囲気そのままである。
「森との真ん中くらい、かな。行ってみるしかないか」
「そうね」
自分達の背後も草原になっていて、前方と違い、果てが見えない有様なのだ。めぐみの言葉にゆりが頷くのは当然というか、そうするしかなかった。
明日葉丸で、村へと着く2人。

「明日葉丸、このままで大丈夫かな?」
「大丈夫かどうか分からないわね。できればこのままにしておきたくないわね」
2人の会話を、村人が聞いていた。
「明日葉丸?あんたら、丸魔神(マルマシン)を持ってる凄い人達なんかね?」
「丸魔神?それって何ですか?」
「?丸魔神のことを知らねぇべか?あんたらどっから来たんだべ?」
2人は苦笑するしかなかった。
村人が丸魔神のことを話そうとした時。突然、凶悪な魔神(マシン)が村に近づいて来たのが見えた。その魔神は上空から攻撃してきており、このままでは村が全滅するのは明らかだ。
「ゾーアイの手下が暴れてるぞ」
そんな声が村の中にある櫓からかかり、村人たちが逃げ始める。

 一方、森の側から出てきた少年がいた。剣を掲げて大きく叫ぶ。
「龍神丸〜」
「おーぅっ」
少年が龍神丸に乗り、上空の魔神と戦うが思うように攻撃が当たらない。
ゆりとめぐみがそんな様子を見ていると、どこからか空神丸が現れ龍神丸と合体、龍王丸となって村を襲おうとしていた魔神を撃退した。
「龍王丸、村へ行ってくる」
「気を付けるのだぞ、ワタル」
「ありがとう、龍王丸」
そしてワタルが村に着くと、村人がゆり・めぐみの2人が丸魔神について話しているのが聞こえた。村人は、先程丸魔神について話そうとしていた村人だ。
「おお、お前さん達。無事じゃったか。何よりだべ。さて……丸魔神というのはな、このゾーアイ界に存在する魔神の中でも特に強い力を持つ魔神だべ。魔神は、この村を襲おうとしたり、守ってくれたりしたものだべさ」
「なるほど。でもあたし達の明日葉丸は魔神じゃないわね。ただの乗り物。名前が明日葉丸っていうだけ」
「明日葉丸、意外とそんなことないかもしれないよ」
村の入り口にあった明日葉丸に何かを感じていたワタルがそう言った。
「誰?」
明日葉丸のことに対して口を挟んできたのは誰かとめぐみが思わず尋ねた。
「あ、ぼくはワタル。創界山から来たんだ」
「創界山のワタル……ほう。おめえさん、ドアクダーやドワルダーを倒した英雄のワタルだべか?」
村人の言葉にワタルは照れて頭をぽりぽり掻きながら頷いた。

「ところで、ゾーアイ界って?」
「ゾーアイが支配するこの世界のことだべ。虹の7色、そして白と黒。9色の色が形作る世界だべ」
「ってことはゾーアイを倒せば戻れるってこと?」
「ゾーアイは結構前からものすごくおかしくなったんだべ。ゾーアイを倒したらこの世界自体が消えるべ。だから、ゾーアイを元に戻す必要があるんだべ」
ゆりとめぐみがした質問の回答を聞いたワタルは自分のすべきことを自覚した。ゾーアイを元に戻すのが今回の旅の目的だと。
「で、ゾーアイを戻すにはどうすれば?」
「ずっと伝わってきた話では。白き貝、バラ色の貝、黒き貝の3つをゾーアイに見せれば、元に戻るって話だべ」
「バラ色の貝?この世界って、白と虹の7色と黒の9色が形作ってるんでしょ?」
「その通りだべ。バラ色の貝を7色の貝に分けたんだべ。ゾーアイ自身が、何かあった時の為にそうしたというのが伝承で言われてるべ。んで、陸と海の中にそれぞれの色の貝を祀る場所があるべ。まずはそれを全部回るべさ」
ワタルはこれまでの経験から村人の言葉をすんなり受け入れた。一方、ゆりとめぐみは全く腑に落ちていない様子を見せていた。
ゆりとめぐみの様子が疲れから来るものだと考えた村人が提案する。
「今日は疲れたべさ。村で休んでから行くといいべ」
3人はそうさせてもらうという意志表示をした。

「っと。おめさん達、これからどこへ向かうつもりだべ?」
「どこへ向かえばいいんだろ?ボクも他の2人もこの世界に来たばっかりだし」
ワタルが村人の質問に答える。
「そっか。なら、まずは森を抜けて、海を目指すといいべ。ゾーアイは深海の宮殿にいるって伝承で言われてるべ」
「海の中か……」
ワタルは呟いて少し考え込んだ。
「ワタル、どうしたの?」
「深海の宮殿へ行けるように方法を探すか考えなきゃ」
「当然、私達の明日葉丸も無理ね。そんなこと」
「で、ボクの勘でしかないんだけど。明日葉丸に何か力があるかもしれない。そんな気がしたんだ、明日葉丸を見た時。海の中で自在に動けるような力なのかは分からないけど」
「ゆり、ワタルに協力しよう。マン島に戻らなきゃ、レースに参加もできない」
「ワタル。私達も協力する」
めぐみに同意したゆりはワタルに協力することを伝えた。

破 3つの貝
 ゆりとめぐみ、ワタルは翌朝まで休んで村を出発した。
まずは森を抜けるのが最初の目標だ。途中、ゾーアイの手下の攻撃が何度かあったが龍神丸の力で全て撃退。3人とも問題なく森を抜けた。すると再び草原に出た。
今度は前方に村もないが、ずっと先は崖になっているようだ。
「ずっと先って、崖?」
「それっぽい。どうする?」
「龍神丸で崖下へ降りられるか、確認してくる」
ワタルが龍神丸で崖下を確認した。
「ワタル、龍王丸なら行ける」
「分かった。戻ってから龍王丸になって、明日葉丸と2人を崖下へ運ぼう」
龍神丸の言葉を受けて、ワタルが決断する。戻ったワタルは2人に話を済ませ、龍王丸で崖下へ明日葉丸と2人を運んだ。
降りてきてからは、微妙にだが潮の匂いがしているような気がする。
「海に近づいたのかな?」
「だとしても、まだ先なんじゃないの?」
ゆりとめぐみはこれまでの移動の長さから、海まではまだまだ距離があると考えていた。
「行くしかない、か」
「そういうこと」
めぐみの呟きに、ゆりが同意を返した。
さらに海を目指して進んでいくと、新たな村を発見。その村へ立ち寄ろうと近づいていく。
途中で、ゆりとめぐみは見たことのある人影を見つけた。

「ジロー!」
「お前達は、確か棚橋の教え子」
ジローはゆりとめぐみを確認した。
「どうして?」
「さあな。俺の宿敵のハカイダーがマン島で動ているという話でな。で、俺もハカイダーを倒そうと動いてていたら、この状況だ。ハカイダーを倒した後にレースへ出なければならないというのにな」
「ジロー、私達と一緒に」
「いや、俺は俺で動く。元の世界に戻る必要がある、という点では同じだ。いずれ交わることもあるだろう。それまで別々にこの世界のことを知って、情報交換しあう方が有意義だ。それに2手に分かれて棚橋を探す方がより見つけやすいはず」
「確かにそうかも」
「ジローはコーチとレースに出るの?」
「そうだ。棚橋とレースに出ることにした。本当はそんなつもりなかったんだが、お前達との2度のレースは面白かった。それにマン島でハカイダーを追うにはレースの参加者となるのが一番動きやすかったからな。もっとも、棚橋にはまだ言っていないが」
「3度目の正直で、次は私達が勝つ!」
「そういうことなら、コーチはジローと一緒なんじゃ?」
「攫われて、行方不明だ」
「コーチが!?」
「ジロー、なんでそんなに冷静でいられるの!?」
「攫って行く時に、棚橋が必要だということを言っていた。少なくとも死んでいるとは考えづらい。それなら、棚橋を追えばいい。この世界についたばかりで、状況把握ができるまでのわずかな間だったとは言え、俺の失態だ」
「ごめん、ジロー」
「私も。ごめん、ジロー」
「お前たちにしてみれば当然の反応だろう」
ゆりとめぐみ、ジローの会話の区切りがつこうかという時、ゾーアイの手下の魔神が現れた。ゆりやめぐみ達を何度か襲ってきた魔神に比べると、より強そうな魔神だ。
「ボクが相手をする。その間に早く村へ!」
「ジロー。ワタルに任せておけば大丈夫だから村へ行こう!」
ワタルが龍神丸で魔神の相手をしようとする様子を見て、ジローは頷いた。
「行こう!」
ゆりがそう言って、走り出す。めぐみとジローも続けて走りだし、村へと着いた。

 村では魔神が現れたことで騒ぎになっていたが、ワタルと龍神丸によって撃退されたのを見て、落ち着きを取り戻した。
「いんや、まさか魔神に襲われそうになるなんてなあ、驚いたべさ」
「あの、私達9色の貝を探しているんです。ゾーアイを元に戻すために」
ゆりが村人にそう言うと、村人が言う。
「わかったべ。この村で白き貝を祀っているから案内するべ」
「じゃ、行こう」
「ワタル!」
ワタルが追い付いてきたのを見て、ゆりとめぐみは安堵した。
4人の様子を見て、村人が白き貝を祀っている場所へ歩き始めた。

 祀っている場所へ着いたゆりとめぐみ、ワタル、ジローの4人。白き貝は自らワタルを選んだかのようにワタルの目の前で宙に浮いた。
「ボクがこの貝を持て、ってことかな」
ワタルが貝を掴んだ瞬間、ベルトのバックル部分が白き貝になった。
「これで白き貝は然るべき者が手にしたことになるべ」
「ようし、まずは1個目!」
ワタルはひとまず、白き貝を手に入れたことを喜んだ。
「それぞれの貝を祀る領域が海層と言われてるべさ。この階層は地上だけんど、第地階層とか第0海層とか言われることもなくはないべ。残り8色の貝は全て海の中で、海の中で一番浅い第1海層に赤き貝があると言われてるべ。で、深くなるごとに海層が進んで青くなり、最後は黒き貝になるべ。ただ、黒き貝はゾーアイ自身が持ってるとも言われてるべさ」
ゆりとめぐみはこの先どうすればいいかと内心不安を覚えていたが…
「あ〜そうそう。さっきの白き貝はゾーアイの宮殿へ向かう為の船みたいなもんだべ。海に白き貝が宿ったモンを入れれば、乗れるようになるはずだべ。ただ、動力は人力という話だべ」
「ありがとう」
ワタルが村人に礼を言う。
「俺は別行動する」
ジローは村を出て行った。海の中での活動の為の対応が必要なのだ。
そこで、先程ワタルが撃退した魔神の残骸から海中活動用に使えそうなものを確認する。その使えそうなもので、海中活動用の強化パーツを作成し始めた。ちなみに、完成したのはワタル、ゆりとめぐみの3人が第1海層最初の村に着いた頃だった。

「ボク達も行こう!」
ワタルがベルトを海に入れると、バックルの白き貝の力で巨大な2枚貝が出現した。
「これ、乗れるの!?」
「大きさは確かに乗れる大きさだけど……」
「今までの経験からすると大丈夫。多分この貝に乗ってれば、呼吸とか水圧とかの心配はいらない。後は海の中を進む為に何かオールみたいなものがあるといいんじゃないかな」
オールのようなものとワタルは言うが、オールに使えそうな材料は先ほどの村にはなかった。
「めぐみ、何かないの?」
「そんなのあるわけ」
そう言いながら、めぐみがポケットを念の為にゴソゴソしてみると、種が出てきた。
「種?あ、この前練習してる時に、見つけた明日葉の種か」
拾ってポケットに入れておいた制服のスカートだったようだ。
「一応、これがあるみたい。ゆりは?」
ゆりも同様に制服のスカートのポケットから明日葉の種が出てきた。
「明日葉の種が2つ、か……」
「とりあえず、海の水だけど明日葉の種に水をかけてみよう」
ワタルが2人の出した明日葉の種に海の水をかけると、明日葉が成長し、うまい具合にオール代わりになった。
「よぅし、まずは第1海層の赤き貝を目指して出ぱーつっ!」
ワタルが宣言する。そして明日葉丸も2枚貝に乗せ、3人の深海宮殿を目指す旅が始まった。
第5海層の貝までは、途中に色々ありながらも無事に手に入れることができた。ただ、第6海層へ向かうのが問題だった。それは明日葉のオールがついに限界を迎えてしまった為だ。流石に植物の寿命なので、どうしようもなかった。
「明日葉のオールが……」
ゆりが呟く。
「オールは貝の中に残しておこう。オールではなくて、別の形で使えるかもしれない」
ワタルの言葉は、自分の勘に基づいてのものだが、それは正しかったと証明されるのは少し後のことだ。

ワタル、ゆりとめぐみの前に黒い何かが立ち塞がる。ジローのもう1つの姿のキカイダーを連想させなくもないが、胸に稲妻の紋様と頭部のクリアケース内の脳が印象的な姿だ。
「お前たちは、キカイダーと共にいた連中!」
「誰だ!?」
黒き者の声にワタルが反応する。
「俺はハカイダー。キカイダーを倒す者。キカイダーはどこだ?」
「キカイダー?何のことよ!」
めぐみがハカイダーに言い返す。
「お前達がジローと呼ぶ者こそ、俺の宿敵。すなわちキカイダーだ」
「ジローが?」
ゆりが本当なのかということを口にする。めぐみも同じ思いだった。

「キカイダーと組んでいた男はここにはいないのだな」
「なんであんたがコーチのことを!?」
めぐみが驚きの声を上げる。
「ハワイでのレース遊びを見ていたからだ。観衆の数の鬱陶しささえなければ、あの場でキカイダーを殺せていたものを」
「私達のレースは遊びじゃない!」
2人のレースに対する誇りが既に手にした貝の力を呼び、それは寿命を迎えた明日葉を新生させた。
明日葉のオールとして使えるのはもちろんだが、それだけではなかった。
「このぉ!」
めぐみが怒りと誇りを混ぜ合わせた感情で、明日葉を振り回すと、人間を軽く包めるような巨大な泡が発生した。
「ゆり、あいつに泡をぶつけて!」
めぐみの指示を受け入れ、ゆりが明日葉を大きく振り回すと泡を動かすのには充分以上の風が吹いた。
「こんな泡で何ができる!」
ハカイダーが泡を侮っていると、ゆりが明日葉を大きく振るのを繰り返し、泡を誘導する。
誘導された泡を破壊しようとするハカイダーだが、それは出来なかった。貝の力なのだろう、泡はハカイダーの攻撃力を上回る弾性と防御力を備えていた為だ。そして、誘導された泡がハカイダーを包み込む。第5海層から地上へ向かうように、ゆりが明日葉を最大限の勢いで振って見せる。ハカイダーを包んだ泡は、地上へ向かって上がっていくのであった。

 入れ替わりに、ジローが姿を見せる。
「ジロー、さっきハカイダーって奴が来た。『ジローがキカイダーだ』って言ってたけどどういうこと?」
ワタルがジローに尋ねる。
「ハカイダーの言ったことは正しい」
「なるほど。じゃ、ジローはこれからボク達と一緒に行けるな。ジローのことが分かったんだから、一緒にいても問題ないだろ?」
「どうだかな。お前達が正攻法で海層を進んできたのなら、俺は裏の手とも言えそうな手を使って進んできた。それに裏の側からだからこそ、棚橋の情報も掴めたところもある。お前達はどうだ?」
ゆりとめぐみに対し、棚橋の件を振るジロー。
「私達が寄った村ではコーチのことは分からなかった」
ゆりが返答する。
「そうか。俺が得た情報によると、棚橋は生きている。そしてバラ色の貝を成すのに必要な存在ということだ」
「じゃ、コーチは今どこに!?」
めぐみがキツめにジローへ問う。
「第5海層という話なんだが、お前達は会っていないのか?」
「うん。会ってない。ただ、さっきのハカイダーの口ぶりからすると、ハカイダーはその人に会っていると思う」
ワタルがジローに答える。
「泡で地上送りにしちゃったのは失敗?」
「だったのかな……」
ゆりとめぐみの2人はそれぞれ呟いてうなだれる。
「ハカイダーなら短時間で戻ってくるだろう。次のハカイダーの攻撃が来る前に第6海層へ行った方がいい。それに今までの第5階層内に棚橋がいなかったのなら、第6海層との境にいるはずだ。俺はまだ別行動で、バラ色の貝や棚橋の存在が必要なことについて調べてみる」
ジローの言葉を受け、ワタル、ゆりとめぐみの3人は第6海層への境へ向かった。
「ここを超えれば第6海層か。でもその前に、やらなくちゃならないことをやろう」
ワタルがゆりとめぐみに元気づける意味も含めてそう言った。
「だね。ここにコーチがいるはずなんだから探さなきゃ!」
「コーチを見つけるのは私!」
めぐみとゆりの様子がいつも通りに近い感じになった。沈むというよりは、普段よりも浮かれているというか気合いが入っているというか、そういう感じでのいつも通りに近いものだ。
3人が棚橋を探し回ると、ゆりでもめぐみでもなく、ワタルが棚橋を見つけて2人を呼んだ。
「お前ら!」
「コーチ!」
ゆりとめぐみが棚橋に抱き着く。しかしこんな時でもより棚橋を独り占めできるような奪い合いは続く。その様子にワタルは少々呆れてしまった。
「全く、お前らは。何かこの世界に来たと思ったら、攫われて、それで戻ろうと思って動き回っていたら、この場で足止めされてな。それ以来、ずっとこの場所ってわけだ」
棚橋の言葉に安堵したゆりとめぐみ。が、それも束の間のことだった。

「お前達、気をつけろ!」
ジローが姿を見せる。
「おお、ジロー!」
ジローは警告を発したが、棚橋は脳天気だ。ワタルは注意を払い始めるが……
 何者かが棚橋にサングラスともゴーグルとも取れるようなものを身に付けさせた。それはあっという間の出来事で、ジローでさえ反応できないことだった。
「この男は俺の手駒になった。ようやくキカイダーを倒せるチャンスが来たのだ。逃すわけがなかろう」
その言葉の主に、ジローが闘志を漲らせる。そう、ハカイダーだ。
身に付けさせられたものの影響だろう、棚橋が邪悪の化身のようになっていく。
さらに、どこからともなく魔神が現れる。魔神の操縦者として棚橋が魔神に消えた。
棚橋の魔神が暴れ始める。この状況に対応できるのはワタルとジローだ。
龍神丸を呼び出し、ワタルが魔神を押さえる。ジローもキカイダーとしてハカイダーと戦うが、魔神の操縦席には近づけない。
「くそっ。ハカイダーのヤツが身に付けさせたシロモノを外すなり、破壊すれば元に戻るはずだが」
ジローの言葉は、ゆりとめぐみの闘志に火をつける。

「コーチを助けるのは私!」
ゆりとめぐみ、2人の想いは最大限に達して互いに右拳を放つ。「自分とコーチが結ばれたい」と互いに思った故である。放たれた拳はカウンターとなり、頬に当たろうとした瞬間。2人の感情をゾーアイ界が力に変え、明日葉丸に奇蹟を起こす。そう、明日葉丸が本当に丸魔神になったのだ。
「めぐみ!」「ゆり!」
1人で操縦するタイプの魔神の龍神丸に対し、明日葉丸は2人で操縦するタイプだ。
2人はコーチを争うという点ではライバルだが、幼馴染でもある。反目していたとしてもそれなりには力を発揮できるだろう。
明日葉丸に吸い込まれ、2人は操縦席に座る。
「ワタル!」
「私達も戦う!」
棚橋との3人の時間と期間は、ゆりとめぐみを棚橋の動きへ対応させる。しかし、時間が経つにつれ、明日葉丸は劣勢へと傾いていく。龍神丸は相手の魔神の力なのか、それとも別の問題なのか。どこか力が出せていないように見える。
「ワタル、原因はわからないが力がうまく出せない感じがずっとする。少なくとも今回の闘いでは明日葉丸とジローのサポートをするのが良さそうだ」
龍神丸からそう告げられたワタルは、それを受け入れた。
「よし、龍神丸。明日葉丸とジローのサポートで戦おう!」
「わかった。いくぞ、ワタル!」

 棚橋の操縦する魔神が優勢な状況だが、明日葉丸も負けてはいない。キカイダーはというと、敵魔神近くに常に居続けるハカイダーを引きはがすため、闘っている。
明日葉丸もキカイダーも、龍神丸の援護を受けながらチャンスを狙い続け、そのタイミングは来た。

「シャイニングロード!」
明日葉丸から光線が放たれ、敵魔神への一直線の道が形成される。
「ウイニングストレート!」
魔神状態からレーシングニーラー状態になった明日葉丸が最高速度で走り……
「いけぇ!」
「ヴィクトリーチェッカー!」
再び魔神状態になって、スピードに乗った連続パンチがチェッカーフラッグの模様のように当たり続け、最後の一撃のストレートで思い切り敵魔神を吹っ飛ばす。
「ワタル!」
ゆりとめぐみのバトンタッチを受け、ワタルが止めを刺す。
それでも敵の魔神は爆発に至ることはない。また、キカイダーもハカイダーに撤退が必要なダメージを与えて引き下がる選択をさせることに成功した。
「コーチーーーーーーーーーーーー!」
ゆりとめぐみの叫び声は2つの海層の間を流れる泡に消えゆく。
「キカイダー! お前を倒すのは次の機会だ!」
ハカイダーは棚橋の操る魔神に飛び移り、共に撤退して行く。
「ハカイダー……」
ジローは敵魔神とハカイダーの様子を見ながら、これからのことについて少しだけ物思いにふけった。

「ジロー!」
ゆりとめぐみが同時にジローへ声をかける。
「棚橋を助けるのだろう?ハカイダーも絡んでいる以上俺も共に闘かおう」
「ありがとう」
再びゆりとめぐみが同時で、ジローに礼を言った。
「よろしく」
「ああ」
ワタルは過去の旅の経験からなのか、すんなりと受け入れた上でのあっさりとした挨拶、ジローはジローで、一言だけの返事だった。
「ジローの力もあれば、コーチを助けられる!」
「まさか、ジローがこんなに強かったなんて。なるほど……このジローの相棒のサイドカー付バイクに対して私達が勝てないのは当然か。ハワイでの『ジローの相棒に勝てない、勝てたら天地がひっくり返る』っていうコーチの言葉が本当に納得できた」
ジローの共闘の申し出を喜んだゆりに対し、ジローの強さを見ためぐみは驚きを見せている。2人ともジローが人造人間だということは全く気にしておらず、むしろコーチである棚橋のことを気にしていた。そして、ジローは掴んできた情報をワタル、ゆりとめぐみに話した。

「コーチ……」
レースでのバトルならともかく、このような形で戦うことになるとは思ってもいなかったゆりとめぐみ。辛いことは辛いが、そこはこの2人。「自分がコーチを助けて、恋人になる」という出し抜きあいが静かに始まっていたのだった。

 ゆりとめぐみ、ワタル、ジローの4人で第6海層、第7海層は突破できた。だが、ゆりとめぐみは重々しい気分とまでは言えないが、沈んだ気分を抱えていた。理由は単純で、棚橋と何度か戦闘を交えたからだ。いずれも「棚橋を撃退」という結果だったが、一つ間違えば棚橋の命が失われる結果にもなり得る。それを棚橋との戦闘の度に痛感させられた。
それでも先へ進まなければ元の世界に戻ることができないのも分かっており、第8海層にようやく辿り着いた次第だ。

「最後の第8海層だ。黒き貝を手に入れて、7色の貝をバラ色の貝にして、そしてゾーアイに3つの貝を見せて元に戻す!」
ワタルが最後の海層に対する意気込みを見せ、ワタル達は海層内を動き回りはじめる。流石に第8海層だけあり、ゾーアイの手下の動きも激しく、戦闘回数は今までの海層に比べるとかなり多い。そんな中、嫌な事実が判明する。「ゾーアイがいつ消えてもおかしくない状態にある」「黒き貝はゾーアイではなく別の者が持っている」「黒き貝の持ち主が、ゾーアイをいつ消えてもおかしくない状態にした」ということだ。

 判明した事実からジローはハカイダーが黒き貝の持ち主と考えた。
「ハカイダーが、黒き貝の持ち主だろう。つまりハカイダーがこちらに同調しないと、元の世界に戻ることが不可能だ」
ジローの言葉にゆりとめぐみは不満そうだ。ワタルは黙って受け入れていた、というか納得した。何度も闘って感じていたのは、「如何にジローと同じような存在とは言え、強すぎる」ということだ。
「何であいつが黒き貝を持ってんのよ!」
ゆりとめぐみは言葉にしないものの、そう思ったのは間違いない。怒りと殺気が2人の表情を険しく歪めている。
「お前達、その状態では闘えないだろう?」
冷静さを欠いていると一目でわかる状態の2人に対し、ジローはかなり冷静に2人へ問う。
「闘えるわ」
ハモって2人は返事をするが、ちゃんと問いに答えたというより、脊髄反射のように即答した結果だ。
「おねえさん達、もっと落ち着いてから戦った方がいい」
ワタルもジローに同意見である。が、ゆりとめぐみの様子に変わりはない。仕方ない、といった様子と口調でジローが言った。
「冷静さを欠いているお前達が戦ったら、棚橋を殺してしまう可能性がより高くなる」
「棚橋」という名前が入ったことで、ジローの言葉の「棚橋」以後の内容だけは2人の耳にようやく届いた。
「……」
怒りと殺気に溢れた荒ぶる状態から、ようやく落ち着きを取り戻し始めた2人。
「助けるどころか殺しちゃったら……」
「頭に血が上りすぎてたみたい」
何度か深呼吸して自分達を落ち着かせるゆりとめぐみ。
「ハカイダー、だっけ?」
ゆりがジローに尋ねる。
「ああ。どうにかハカイダーをこちらに同調させる必要がある」
「ハカイダーはジローに拘ってたから、ジローがうまいことやれば何とかなるんじゃない?」
「可能性はあるだろう。だが、何をすればいい?」
めぐみの意見にジローは肯定的な返答をした。
「『この世界でジローを倒しても、ジローを倒した証明ができないから元の世界に戻ってから決着をつける』っていうのは?」
今度はワタルが言った。
「いい策だ。『俺を倒した』証明ができないなら、口で言っているだけになる。ハカイダーもそれは避けたいだろう」
こうして、ハカイダーを同調させる方針が確定した。後は次にハカイダーが現れた時、ジローが同調するよう対応することだ。

 4人はさらに第8海層を進み、段々とゾーアイのいる深海宮殿が近づいてくる。
だが、深海宮殿が見えたとしても突撃・突入することはできない。なぜならバラ色の貝がないからだ。バラ色の貝が分かれた7色の貝を戻すには、ゆりとめぐみ、それに棚橋の3人が必要だということが第8海層内を巡って分かったことだ。

「ある意味好都合かもしれない。ハカイダーは黒き貝を持っていて、棚橋と共に行動しているからな」
第5海層と第6海層の境で、ハカイダーの手駒にされてしまった棚橋は、それ以後ハカイダーと共に現れてきた。
「次にハカイダーが現れた時に、こっちの考える通りに行けば全て解決する」
ジローの言葉は楽観的希望でしかないが、ゆりとめぐみには楽観的ではない充分な希望の言葉に聞こえていた。
「次、絶対に勝つよ!」
めぐみがそう言うと、ゆりは頷いた。

 4人は深海宮殿に一番近い、第8海層最後の村に辿り着いた。
「よっく来たなぁ。ここから先にあるのはゾーアイのいる深海宮殿だべさ。深海宮殿の入り口は黒き貝の力で見えなくなってるべ。黒き貝は持ってるんだべ?」
「いや、持ってない」
ジローが村人に答えた。
「なら、黒き貝を手に入れるべさ。そうでなけりゃ、進んでも意味がねえべ」
「ここから深海宮殿まではどのくらいの距離がある?」
「そうだべなぁ……この町が10個、くらいってとこだべか」
村人の言葉を聞いて、ジローが今までの戦闘での最大範囲を思い返す。大体この町が7、8個くらいの広さだろうか。
「ジロー、何で今みたいなことを聞いたの?」
ゆりがジローに聞いた。
「ハカイダーと棚橋を誘き出して、アレを実行できる最初で最後の機会かもしれないと思ってな。それにうまく行った後、この町に戻ってきて深海宮殿行きの最終準備もできる」
「なるほど。ジローの作戦をやろう」
ワタルの言葉にゆりとめぐみも同意した。
念の為、最後の情報収集を行ったが、特に新しい情報はなかった。4人が町を出て深海宮殿との中間が近づいて来た時。ハカイダーと棚橋が現れた。もちろん、棚橋は魔神に乗っている。
 ハカイダーと棚橋が現れたということは、ジローの案を実行する時が来たということだ。ワタルが龍神丸を呼ぶ。ジローはハカイダーを納得させる必要がある。そして棚橋が身に付けさせられたものを、ワタルか、ゆりとめぐみが外すか破壊しなければならない。
「ハカイダー、この世界で俺を倒しても、俺を倒した証明ができないぞ」
「なるほど。俺をお前ら側に同調させるつもりなのか。証明できようができまいが、関係ない。俺の使命はお前を倒すことだ」
「俺を倒したのを自分が分かっていればいい、か」
「そういうことだ」
ハカイダーの言葉の直後、棚橋の魔神がジローを攻撃する。
「ジロー!」
ワタルと龍神丸がその攻撃を阻止。ハカイダー対ジロー、棚橋の魔神対龍神丸の闘いが始まった。ゆりとめぐみは明日葉丸で、ジローや龍神丸のサポートに入る。
闘いがしばらく続き、膠着状態になったと思われた時、それは起こった。

 深海宮殿がとある生き物に姿を変えたのだ。その生き物はリュウグウノオトシゴ。ゾーアイ界が誕生した時からゾーアイと共に存在する生き物であり、ほとんど身動きすることなく海底に横たわっていた。ゾーアイ界のナマケモノ、とも言えるかもしれない。しかし、ゾーアイの存在を維持させる為に生き物としての動きを見せたのである。

 深海宮殿の変化の余波は、宮殿から離れているジロー、ワタル、ゆりとめぐみ達の元にも届いた。この余波の影響を一番受けたのは棚橋の魔神だ。魔神の背中側に傷ができてしまった。この傷を4人が確認し、棚橋の魔神にある背中の傷を攻撃できるように連携して攻撃を続けていく。この連携にはハカイダーも手を焼くしかない。

「クソっ。またキカイダーを仕留められないのか」
ハカイダーの言葉に黒き貝が反応し、よりジローへの執念と破壊衝動が増す。だが、これはこの闘いを終わらせる流れを生み出した。それまでは棚橋へのフォローやバックアップ的な行動を肝心なところで行う理性と心的余裕を持っていたハカイダーから、それらが無くなったのだ。
「ワタル、ゆり、めぐみ。そっちを頼む!」
ジローが棚橋の魔神を3人に任せると意志を示す。
「了解っ!」「任された!」
ワタル、ゆりとめぐみが返事をする。
「ボクがあの背中の傷を攻撃して、乗ってる人も気を失うように魔神を止める」
「オッケー!」
「じゃ、私達が引きつけるから」
ワタルの言葉をゆりとめぐみが受け入れる。

 一方、ジローはハカイダーを相手にしていたが、闘いに関しては変化前の方がやりにくかったと今のハカイダーを相手に思っていた。問題はハカイダーをどうやって元に戻すか、である。一番考えられるのはハカイダーの気を失わせることだが、今のハカイダーを相手にするには気を失わせるのではなく、ハカイダーを倒すつもりでやらないと自分の方が危ない。
 明日葉丸と龍神丸のタッグが棚橋の魔神を相手に立ち回り続ける。ついに棚橋の魔神の動きを止めることに成功した。
「コーチ、大丈夫だよね?」
「うん。私達のコーチだもん」
「お姉さん達、気を付けて中に入って」
棚橋のことが心配なゆりとめぐみに、棚橋の魔神に入るようワタルは言葉を発する。
ゆりとめぐみは棚橋の魔神の中に入り、操縦席の棚橋を見つける。ワタルがうまい具合に棚橋を気絶させるように棚橋の魔神を止めたおかげで、棚橋が暴れるようなことはなかった。すぐに棚橋が身に付けさせられたものを外そうと掴む2人。黒き貝の力が発動しようとするが、その前に壊してしまう。
「よかった、コーチ」
「コーチ……」
棚橋の左右で安堵する2人の様子を目覚めながら見る棚橋。
「お前達……」
「コーチっ!」
棚橋が2人をそれぞれ見て呼びかけ、ゆりとめぐみは左右から棚橋に抱き着く。
「何だこりゃ!?」
自分がどこにいるのか、どういう状況なのか把握できない棚橋の混乱は当然だ。
「何か、私達異世界に来ちゃったんですよね」
「この異世界からあとちょっとでマン島に戻れるんです。コーチ、一緒に」
「そうか。なら帰らないとな」
棚橋の意識と意志を確認したゆりとめぐみは明日葉丸に戻る。
「ワタル、コーチを取り戻せたよ。ありがとう!」
「元の世界に戻れるまであと少しだしね。行こう!」
ゆりとめぐみの言葉にワタルは頷いた。
「ジローを助けよう!」
龍神丸、明日葉丸、棚橋の魔神がジローのサポートに入った。

「明日葉丸。お前の必殺技でハカイダーを吹っ飛ばすことはできないか?」
唐突とも言えるジローの問いに、ゆりとめぐみは黙った後、こう答えた。
「多分行けると思うけど……正直やってみなくちゃ分からない」
「ジロー、何でそんなことを聞くの?」
「深海宮殿の方向で何かあったのは分かっていたが、何か巨大な生き物が出たようだ。その巨大な生き物の腹の中に……何か別の生き物が存在して生き続けている。巨大な生き物を使えば、今の状態のハカイダーを元に戻せるかもということだ」
「ハカイダーを殺すわけにはいかないから、やってみよう」
ワタルは賛成を口にする。ゆりとめぐみ、棚橋も同意した。
「よし、俺達で明日葉丸をサポートするぞ!」
ジローの言葉を合図に、戦闘態勢の変更が行われ、明日葉丸が切り札となる。
新しい戦闘態勢に変化して間もなくすぐにチャンスが来たかと思われたが、そうではなかった。さらに闘いが続き、ようやく明日葉丸の出番が本当に来た。

「シャイニングロード!」「ウイニングストレート!」「ヴィクトリーチェッカー!」
明日葉丸の最大限の力でハカイダーを吹っ飛ばす。そのふっ飛ばし具合は魔神の力ならではである。一方、ハカイダーの方は気を失ってはいなかった。反撃するという意識だけがハカイダーに満ちていた。
 ジローがハカイダーの反撃意識を感じ取る。
「ハカイダーは気を失ってない、反撃に気をつけろ!」
ハカイダーの反撃に、龍神丸と明日葉丸と棚橋の魔神が注意を払う。ジローも注意しつつ、反撃が自分に向かうようハカイダーへ接近していく。

「ワタル、コーチ!私達が明日葉であいつをもう1回泡に包んで、あの巨大な生き物の中に入れる」
「だから、そうできるようにジローを助けて!」
「分かった。お姉さん達なら、うまく行くよ」
「お前らならやれる!」
ゆりとめぐみの話にワタルと棚橋が乗っかり、ジローにそれを伝えてから龍神丸と棚橋の魔神でジローをフォローする。
「タイミングが大事。いくよ、めぐみ」
「失敗しないでよ、ゆり」
明日葉丸がオールにしていた明日葉を手にすると、明日葉が明日葉丸の大きさに合わせて巨大化した。まずは泡を発生させて、ハカイダーを包み込むタイミングを待つ。
ジローと龍神丸、棚橋の魔神はハカイダーの最初の反撃を避けて、ハカイダーの目標を自分達に固定させた。そして、明日葉丸、棚橋の魔神、ハカイダー、ジローと龍神丸が一直線上になった時。明日葉丸に合図が送られた。明日葉丸が明日葉の力でハカイダーを再び泡に包み込み、さらにその泡をリュウグウノオトシゴの中へ送り込んだ。
リュウグウノオトシゴの中にハカイダーの入った泡が入ると、泡はなくなり、ハカイダーが直接リュウグウノオトシゴに包まれる状態になった。すると、ハカイダーは大人しくなっていき、やがて眠っているかのように身動きしなくなった。ハカイダーから黒き貝が静かに浮き上がる。
「やはり、黒き貝はハカイダーが持っていたな」
黒き貝の力で、リュウグウノオトシゴの中にいるゾーアイの存在の危うさがなくっていく。
「ハカイダーの他に……あれは何だ?」
黒き貝とゾーアイの様子にジローが呟く。
「ひょっとしたら、あれがゾーアイ?」
ワタルがそうかもしれない、と口にする。
存在具合が元に戻ったゾーアイが、口を開く。
「この世界を元に戻すには、白き貝、黒き貝、バラ色の貝が必要。そしてバラ色の貝を成す7色の貝、それを纏める者も全てあるならば」
ゆりとめぐみ、ワタル、棚橋、ジローは言葉の続きを待つ。
「我のいる、このリュウグウノオトシゴの中へ」
ゾーアイの言葉を受けて、龍神丸・明日葉丸・棚橋の魔神・ジローが、ゾーアイとハカイダーの元へ向かい、辿り着く。すると、ワタル、ゆりとめぐみ、棚橋は魔神からごく自然に出された。同時に、ワタルの白き貝がバックルから離れた。また、ゆりとめぐみ、棚橋が持つ7色の貝も3人の元を離れた。
ゆりとめぐみに対してゾーアイが言葉を発する。

「あなた達の愛憎ぶりはとても大きく、私に影響を与えた。その影響は日を重ねるごとに大きくなっていき、やがて私は自分を失うほどになった」
ゆりとめぐみは、今回の出来事の真の原因は自分達だと言われたわけである。
「異世界に影響を与える程のその愛憎の大きさは、一歩間違えれば世界の破滅につながること・それだけ大好きな人がいるということは良いことであることを忘れないでほしい」
なんとも言えない気持ちになったものの、ゆりとめぐみはゾーアイの言葉を受け入れる。
ゆりとめぐみ、棚橋は自分達を中心に7色の貝を円状に並べ、3人の関係から発生する愛憎によって、7色の貝をバラ色の貝に変化させた。
これで、ゾーアイを元に戻すのに必要な3つの貝が揃い、後はその貝をゾーアイに見せれば、すべてが終わる。
「全てを纏め、一つと成す者。そして心と行く末を探し、見守りし者よ。それぞれの手に白き貝と黒き貝を、その胸にバラ色の貝を」
ジローが白き貝、黒き貝、バラ色の貝を掲げ、ゾーアイに見せる。
3つの貝の力はゾーアイが持つ力を甦らせ、それと同時にゾーアイ界自体も元に戻っていく。ゾーアイの力が完全回復すると、ゾーアイ界も完全に元に戻ったのだった。もちろん、リュウグウノオトシゴも深海宮殿に戻ったのである。

急 それぞれの世界へ
「終わった……」
ワタルは疲れを滲ませながら言う。ただ、表情は嬉しさを爆発させていた。
「やっと帰れる……ジロー、勝負よ!」
「レースの準備するよ、ゆり!」
ゆりとめぐみはマン島に戻ってからのレースのことに頭を切り替えていた。
「ジロー、どうだ?俺とマン島のレースに出るのは?」
棚橋の誘いに、ジローが答える。
「ああ、出る。ハカイダーもすぐには動けないだろう。それにマン島でレースをすれば、もうお前の教え子達にレースを申し込まれなくて済む」
「きっと今後は私達がジローにレースを申し込まなくても、ジローの方から私達にレースを申し込むことになるわよ。レースの面白さをジローは知ったんだから」
ジローのマン島TT参加表明に対して、ゆりがそんなことを返した。
「帰ろう!」
めぐみの一言に、ゆり・棚橋・ワタル・ジローが頷いた。ハカイダーは、ゾーアイとゾーアイ界の完全回復後も、眠ったままのような状態が続いていた。
「お別れだね、お姉さん達。ボクは創界山へ戻る。創界山からなら、ボクのいる世界へちゃんと帰れるから」
「ワタル、助けてくれてありがとう」
「元気でね、ワタル」
「ジロー、ありがとう」
「ああ。ワタルには、色々助けてもらった。ありがとう」
ワタルと、ハカイダーを含むワタル以外のグループがそれぞれいるべき世界へ、ゾーアイの力で帰っていく。ちなみに、明日葉丸もちゃんと元の世界に戻った。

 ゆりとめぐみ、ジローと棚橋はこれからマン島TTで激突を迎える。そしてハカイダーは相変わらずジローを付け狙い、倒そうとし続ける。
ワタルはマン島TTをたまたまTVで目にし、ゆり&めぐみペアVSジロー&棚橋ペアの戦いを見て、その様子をゾーアイ界のことと共に強く記憶に残すのだった。


参考資料
つうかあ&キカイダー番外編(2017年度上半期号収録)
つうかあ&キカイダー番外編幻のハワイTT!?(2017年度下半期号収録)




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