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ユニオリズム・カルテット番外編 トリコロール・リュミエール
投稿日時 2016-1-12 23:55:08
執筆者 gf-tlvkanri
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いつもの2次創作な番外編。 本番外編では、珠緒の料理について意図的に漢字表記「臨死体験料理」を当てている。 ゲーム本編では「アルティメット」または「あるてぃめっと」で表記されているので念の為。 なお全角40字/行で表示すると、こちらの意図した折り返しになる。
あらすじ ユリナとミリィ、天音・マリエル達が学園(キャメロット)に残って、少し月日が経った。 ユニタリー・フォームを身に付けたアキトと互角に闘う人物は思いもよらぬ者だった。
序 決闘(フェーダ)と騎士 中世の儀式決闘(フェーデ)に端を発する、決闘競技(フェーダ)。 今は競技の部分を省略し単に決闘(フェーダ)と呼ばれる。世界中で人気を博し、決闘(フェーダ)を行う者達は騎士と呼ばれる。 騎士はあるものを必ず身に付けている。それはライブスフィア。腕時計的な情報端末兼勝敗判定装置のライブスフィアにより、勝敗の判定が行われる。 ライブスフィアは装着者の勝敗判定の為の機能として、相手の攻撃力と装着者の体力を数値化し、相手の攻撃を受けてどのくらい体力が減ったのかを計測するようになっている。相手の攻撃を受けて自分の体力値がなくなるか、一定時間経過後に体力値の多い方が勝つのが基本である。決闘(フェーダ)によっては、体力ではなく別に勝利条件が設定される場合もあり、その場合は当然勝利条件を満たした方が勝つ。 養成所に通う騎士訓練生達は、養成所のある町以外の場所ではライブスフィアを身に付けることができない。 なお、武器と決闘(フェーダ)における服装の騎士征装に微量のミスリニウムを使い、見えない鞘(インビジブルワーク)と触れえない鎧(リベルコート)という目に見えない武器と鎧の斥力が発せられることで、武器が相手に直接が当たることはない安全性に配慮したスポーツ的なものになっているのが、現在の決闘(フェーダ)である。
太平洋上に浮かぶ島、ログレス島。そのログレスにある王国、アルビオン。 アルビオン王立騎士養成学園は、世界中の騎士養成機関の中でもトップクラスの存在である。 その学園(キャメロット)にて開かれる4年に1度の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)。つい先日の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)では、近衛アキトの所属する騎士団(ユニオン)であるリディアル・エレアノルトが優勝を果たしたのであった。 優勝した者達に叶えられる願いで、アルビオン王に卒業までの学園在籍許可を取り付けた、リディアル・エレアノルトのリーダーである、ユリナことユリフィーナ・ソル・エレアノルト、ユリナの妹でミリィことミルフィーナ・ソル・エレアノルト。リディアル・エレアノルトに属し、ユリナとミリィを警護する刀條天音、ユリナの友人であるレミリアことレミリエーラ・レティアハート達と共に学園生活が続く。
起 臨死体験料理(アルティメット)の真実 学園(キャメロット)の生徒、蕨 珠緒の作る料理を知る者は、その料理を臨死体験料理(アルティメット)と呼ぶ。「お花畑が見えた」「死んだ家族に会った」「三途の川を渡るところだった」等々の評価が出てくるからである。 しかし、料理ではなく菓子を作るのであれば、臨死体験料理(アルティメット)になることはない。珠緒自身も不思議に思っている。だが、なぜそうなのかは分からない。 その答えを知ることが、騎士としての珠緒に大きな強さをもたらすことになるとは珠緒は思いもしなかった。
ある日の昼前。 学園(キャメロット)の入口に1人の騎士がやってきた。騎士の名はYU奏。アキトがユニタリー・フォームを体得したという話を聞きつけたからである。 しかし、到着した時間が悪かった。朝は軽くしか食べておらず、かなりの空腹。学園(キャメロット)の食堂を使おうにも・・・今いる場所からは遠すぎる。 そこへ珠緒が通りかかり、声をかけた。誰が見ても空腹と分かる状態だったのだ。 「あの、もしよければ私の作ったお弁当、どうですか?」 「ありがとう。私で良ければ食べさせてもらう」 「はい、それでは少し移動しましょう。ここでお弁当を食べるわけにはいきませんから」 珠緒はYU奏を連れて、2人で弁当を食べられる場所へ移動した。 移動先は学園の庭だが、何本かの木が固まって少し広い木陰を作りだしている場所である。 弁当を出し、包みを解く珠緒。 「どうぞ」 「ありがとう。ところで、どうして2人分あるのか聞いても?」 YU奏に対し、照れ笑いと苦笑いが混じった微妙な笑顔、いや少しひきつった顔と言った方が良いかもしれない。そんな顔を珠緒は見せる。 「克服する為、と・・・」 言葉の続きがあることを匂わせるニュアンスで、それ以上のことは答えない珠緒。 「言わないことの方は、何となく察しがついた。でも、『克服』とは?」 「お弁当を見れば、わかります」 珠緒の言葉に、弁当のふたを開けて、中を見るYU奏。 「黒焦げばかりだから?」 「そうなんですけど・・・それだけではないんです。私の料理は。私の料理のことを知る人たちは私の料理とその評価を合わせて、『臨死体験料理(アルティメット)』と呼びます」 「臨死体験料理(アルティメット)とはまた」 「食べれば、わかります」 「空腹は最上の調味料。この弁当が臨死体験料理(アルティメット)ではなく、普通に食べられるだろう。では頂くとしよう」 珠緒の作った弁当を食べ、完食するYU奏。 途中、臨死体験料理(アルティメット)を見て、食を止めることが何度かあった。味わっているだけではなく、何かを確かめているかのようでもあった。 「ごちそう様。さて、臨死体験料理(アルティメット)について、私が思ったことを言おう」 学園(キャメロット)の臨死体験料理(アルティメット)を知る者達とは違うことを言いそうな予感。それが珠緒を満たしていた。
「臨死体験料理(アルティメット)と言われているが・・・珠緒の料理が失敗するのは、おそらくバックドラフトとして具現化されるはずの潜在力が、調理の際に加わっているからだろう」 「えぇっ!?」 「普通なら、こんなことは考えにくい。以前、料理に関して何かなかったか?」 「うーん、全く・・・」 「では、先へ進むとしよう。料理ではなく、決闘(フェーダ)の時に、バックドラフトとして潜在能力を解放できるようにすることも可能性がある」 「それって、私が色つきになれるってことですよね?」
色つき・・・それはバックドラフトを扱える騎士を指す呼称であり、騎士として一定以上の実力の到達したことを示すものでもある。他にも黒騎士ともいわれるが、少なくとも学園(キャメロット)においては、「色つき」と言われるのが普通である。 逆にバックドラフトを扱えない騎士は白騎士と呼称される。 ちなみに、バックドラフトとは剣気や闘気とも言われるもので、発現者の騎士により色が違う。ほとんどの場合、自らの武器を中心にバックドラフトが現れる。 その騎士達の使う武器に使われるミスリニウム鉱石。バックドラフトが一定以上加わると、特定の色の光を発するという特徴がある。なぜそのようなことが起きるのかは科学的には解明されていないが、そういうものとして決闘(フェーダ)には浸透している。
「そういうことだ」 「色つき・・・なりたいです!」色つき、の部分ではややうつむいているように思えたが、なりたいです!の部分ではYU奏にはっきり向かい合って意思表示する。 「この時期、大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)が終わってから大して経っていないから、バックドラフトを扱える方が今後にはいいだろう。君の次の休みの日に、臨死体験料理(アルティメット)の原因を探りたい。どうだろう?」 「はい、お願いします!!!あ、まだ私の名前を言ってなかったですね。私は珠緒。蕨 珠緒です」 「これは失礼した。私も名乗っていなかった。私はYU奏。日本人にはわりと普通の名前だが、意図的に名前表記を変えている」 「学園(キャメロット)にはいろんな人がいますから。YU奏さんの名前表記のことを気にする人はいないと思います」 了解したという意味で、珠緒の言った言葉をスルーして違う話を振るYU奏。 「珠緒、弁当をありがとう。私がここに来たのは、近衛アキトが目的だ」 「アキト君ですか?今は、騎士団(ユニオン)のみんなで修練していると思います」 「修練中、か・・・修練中だとどこにいるか分からないこともあるな・・・騎士団(ユニオン)の本拠地で待つのが確実か?」 「夕方までは修練ですよ、多分。アキト君を探しつつ学園(キャメロット)にいる騎士を見て回るのはどうでしょう?」 「目的の近衛アキト以外にも、デュラクディールのシルヴェリア・レオディール。それに柳生騎士団の柳生重兵衛。他にも見ておくべき騎士はいる。珠緒、案内してほしい」 こうして夕方までの間、珠緒とYU奏はアキト君を探しつつ学園(キャメロット)にいる騎士を見て回り、仲良くなった。 「そろそろ修練が終わっても良さそうな時間だな」 「では、ユリナ姫の屋敷へ行きましょう。きっと戻ってきていますよ。もしまだ戻ってなくても、ちょっと待てばアキト君に会えるはずです」 「ありがとう、珠緒」 「今、アキト君に連絡してみますね」 その時、珠緒に声をかけた者がいた。 「おーい、蕨ー!」 「ロウ君〜」 アクセル・ロウ。柳生士団の1人であり、アキトの親友でもある。 声をかけた後、珠緒とYU奏の元にやって来た。 「ロウ君、こちらはYU奏さん。アキト君に用があるっていうから、今からユリナ姫の屋敷へ行こうって思ってたところなの」 「アキト達ならさっき見かけたぜ。騎士団(ユニオン)勢揃いでこの先にいた。目立ちまくって、囲まれてる状況だったからな。今行けばゆうゆう捕まえられるぜ」 飄々とそう言っているが、表に出さないようYU奏の強さや性格を判断している。 「ロウ君、ありがと。この先に行ってみるね」 「おう、気をつけろよ」 珠緒たちを見送った後、ロウは呟いた。 「YU奏か・・・あいつ何者だ?相当強いのは間違いないが・・・」 そして、ロウはYU奏のことを調べたのだった。
ロウの言葉通り、アキトの所属騎士団(ユニオン)であるリディアル・エレアノルトの面々は完全に囲まれていた。ちょっとやそっとでは近づくこともままならないのは明らかだ。 「珠緒、ついてきてくれるか?」 「・・・?」 YU奏の意図が分からず、困惑しながらもついていく返事の頷きだけする珠緒。 先をYU奏が歩き、後ろに珠緒でアキト達に近づいていく。 「近衛アキト!」 人垣から離れた場所でのYU奏の呼びかけ。その雰囲気に囲んでいた者達は動きを止め、静かになった。 「すまない、俺の名前を呼んだ人のところへ行きたいんだ。道を開けてほしい」 アキトの言葉で囲みが割れて、通り道ができた。YU奏の元へアキトがやって来る。 「俺の名前を呼んだのは?」アキトはそう言った。 「ユニタリー・フォームの体得者、近衛アキトに会いに来た」 「・・・」 決闘(フェーダ)の場ではないのに、それ以上の緊張を感じるアキト。 「なるほど、近衛シュンエイの息子というだけある。それに随分と修練を積んでいるのもな」 YU奏はアキトを見て、思ったことを口にした。 「珠緒と一緒、ということは珠緒の友人か?」 「その人はYU奏さん。今日の昼に初めて会ったんだけど、今は友達だよ」 「直接闘うつもりで来たのだが・・・ここで、というわけには行かない。改めて日取りを決めて決闘(フェーダ)をしたい」 「ああ、分かった」 「都合のいい日時があれば、ライブスフィアに連絡してくれ」 その言葉と共に、アキトとYU奏、互いのライブスフィアに相手の情報が登録された。 「アキト君、またね」 珠緒とYU奏が視界から消えてから、アキトはようやく緊張が解けた。 冷や汗では済まない、もっと本能の奥底で感じる強さがYU奏にはある。 「YU奏、か・・・」 ボソッと呟くアキト。天音がそんなアキトに声をかける。 「アキト、YU奏は相当強いぞ。私も冷や汗をかいた」 「なんですって!それほどの者のなの?」 天音の言葉にレミリアが驚く。 「お兄様、どうされるおつもりですか?」 「あの言葉、いつでも相手できる自信がある、ということね」 ユリナの妹ミリィ、ユリナもアキトにそう言った。 「明日、闘う」 「分かったわ」ユリナの言葉の後、リディアル・エレアノルトの面々は言葉を交わすことなく、帰宅した。
屋敷の修練場。夕食を済ませてからの少しの時間だが、アキトはイメージトレーニングと修練をしている。 「YU奏、かなり強いな。ユニタリー・フォームを使えればいいが」
そこにアキトへ声をかける人物が。 「アキトさん」 「マリエルさん」 「この時間に修練ですか?」 「明日の決闘(フェーダ)に備えて」 「後30分以内に、切り上げてくださいね。今のアキトさんの状態からすると、それが限度です」 言っていることは気遣いそのものだが、言葉に込められた雰囲気やニュアンスは命令。それも厳格な命令だ。 「うーん、マリエルさんに言われるとなると、もう無理だな」 夕方のことを聞いたマリエルはあえてYU奏のことを言わずにいた。そんなことは知らずにアキトはライブスフィアでYU奏に明日の決闘(フェーダ)に関する情報を送った。
承 珠緒とYU奏 翌日。アキトの決闘(フェーダ)は非公式(アンオフィシャル)の扱いと決まった。 指定された時間と場所へアキト、YU奏。双方が現れた。アキトは一人だが、YU奏は珠緒を連れてきている。 ライブスフィアからの音声で、決闘(フェーダ)の前の剣誓省略と試合開始が告げられる。 「決闘(フェーダ)、開戦!」アキトとYU奏の声が重なり、正式に始まった。
YU奏の武器は見えない。対してアキトは、大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)の途中から使っている、修練の剣である己を磨く黒き翼(ソラスティア・ノイエ)で変わらない。 「武器はどうしたんだ?」 「気にしなくていい。『拳』がこの決闘(フェーダ)での剣だからな」 YU奏の拳というより左右それぞれの手の指に1つずつ、指輪がはめられている。 実はこの指輪にはミスリニウムが含まれているのだ。
YU奏は、バックドラフトをかなり強く発現した。バックドラフトが全身に広がる寸前くらいに発現している。円卓騎士章(インシグマ)に近いバックドラフトだ。 バックドラフトは武器を中心として特定の色の光が発現するが、円卓騎士章(インシグマ)は、触れえざる鎧(リベルコート)も含めて光が全身を覆う。いわば、バックドラフトの上位とも言えるものだが、そこまで到達できる騎士は本当に極僅かである。 アルビオンにおいては、国を代表する12の騎士団(ユニオン)の代表者に円卓騎士章(インシグマ)が授与される。円卓の騎士になぞらえているのが由来だ。
YU奏のバックドラフトを見て、自分のバックドラフトのギアを最初からトップで行くことを決めるアキト。幾度となく攻防が繰り返され、間合いを取る。 剣を使っている分、アキトの方が間合いとしては有利なはずなのだが全くそれを感じられない。 それ程、YU奏は両の拳による攻撃、防御と受け流しがうまく行っている。 アキトのライブスフィアが残り体力値は50%と告げる。 「ユニタリー・フォームとて、万能ではない。その証明の1つがこれだ。お前の力を見せろ!」 「うぉおおお!」 アキトの渾身の一撃に、YU奏はバックドラフトを集中した拳を打ち込む。拳と剣。それぞれの見えない鞘(インビジブルワーク)が発する斥力によって、直接的に拳と剣が交わることはない。弾かれた後の次の一撃が勝敗を決した。 剣を構え直さなくてはならないアキトは、YU奏の拳撃への対応が間に合わない。 それだけではない。バックドラフトどころか、間違いなく円卓騎士章(インシグマ)の力が拳に集中していた。学園最強の5人に数えられる、シルヴェリアとアーシェ姫のバックドラフトと円卓騎士章(インシグマ)の力を体感したのだから間違えようもない。
ライブスフィアがアキトの残り体力値0%を宣言し、YU奏の勝利が確定する。 「この程度の芸当で・・・シュンエイの息子だからと過大評価したか?」 「こんなことができるとは。やっぱ奥が深いな、決闘(フェーダ)は」 「前向きだな、近衛アキト。さすがにシュンエイの息子だけある」 珠緒を見てから、アキトへ言葉を続けるYU奏。 「ユニタリー・フォーム破りの1つが拳で闘うということだとさっき、私は見せた。他にも破る方法がある。そして、その方法を体現できるであろう人物を見つけた。もしその人物との決闘(フェーダ)に勝てたなら、私の所属騎士団(ユニオン)”アーサー”の所属候補として認めても構わない。必要とあらば、誓約(ゲッシュ)にしてもいい」 「で、その人物というのは?まさか珠緒?」 「察しがいいな。そう、珠緒だ。今のままではお前と相対するどころではないが、強くなれるだろう」 「えぇーーーーーーーっ!?私がアキト君のユニタリー・フォームを破れる可能性があるって・・・」 「珠緒は強くなれるはず。珠緒なら今後近衛アキトに対抗できる、いや近衛アキトを倒せる可能性すらある。そして、1つ頼みたいことがある。珠緒のことはまだ誰にも言わないでほしい」 「わかった。どんなことになるのか、知りたい。それに俺を倒せるかもしれないくらいの力を持った珠緒と闘ってみたい」 「助かる」 「今日の決闘(フェーダ)のことは話をする。それは構わないな?」 「ああ、問題ない。それと珠緒の次の休みの日までの間は、私は宿泊先にいる」 アキトからの確認に答え、その後YU奏はアキトと珠緒に向けてそう言った。
こうして非公式(アンオフィシャル)決闘(フェーダ)は幕を閉じた。 アキトはユリナ達のいる屋敷に戻り、今回の決闘(フェーダ)の内容と結果を伝えた。 もちろん、珠緒のことは伏せて。屋敷内のサロンはにわかに騒がしくなる。
「拳だけで、剣に勝つなんて!」 「見えない鞘(インビジブルワーク)をバックドラフトや円卓騎士章(インシグマ)の力で強化したということだろうか・・・」 レミリアは驚きの声を上げ、天音は考え込み始めた。 「でも、それってユニタリー・フォーム破りの1つでしかないんでしょう?」 「他にもユニタリー・フォームを破る方法ってどうするんでしょう?」 ユリナとミリィがそれぞれの疑問を口にした。 「うーん・・・自信はあったみたいだし、あの実力からして、嘘を言ってるとは思えない。むしろユニタリー・フォームを使えない場合の自力を身に付ける必要があることが分かったのは収穫だったと思う」 「そうね。アキトにはもっと強くなってもらわなくちゃ。卒業までの間には、大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)に参加してなかった強豪達と戦わなきゃならないんだから」 アキトはユリナの言葉に同じ思いであり、同時にこの間の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)のことが脳裏に浮かんだ。
アキトやユリナ達の優勝した、この間の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)は学園(キャメロット)在籍の強豪達が遠征で不在。あまりにも強豪が少ないことから、ユリナのいとこであるアーシェ姫、アーシェリアス・ペンドラゴンの率いる騎士団(ユニオン)が参戦したということがある。ユリナとミリィもアルビオン王族の一員だが、王位継承順としては、47番目と48番目。末席に近い位置と言える。対してアーシェ姫のペンドラゴン一族は、5大王族の一つ。遥かに王位継承順が高い。 それに、アーシェ姫はバックドラフトよりも強い円卓騎士章(インシグマ)の持ち主だ。 常にアーシェ姫と互角に戦えるくらいの力はまだ、リディアル・エレアノルトの面々の誰も持ち合わせていない。
「ああ」 アキトのもっと強くなるという意志を込めた言葉で、今日の非公式(アンオフィシャル)決闘(フェーダ)報告会は終わった。 アキト以外は自室や執務室、あるいは修練場へ散って行った。
「アキトさん、YU奏さんはどうでしたか?」 「はい。こちらは剣、相手は拳なのに負けました」 「あらら、やっぱり。流石に騎士団(ユニオン)アーサー所属だけありますね」 「マリエルさん、知ってたんですか?」 「はい。ちょっとご縁がありまして」 「そうなんですね」 「刀條流とも交流があるみたいで、みなもちゃんもYU奏さんのことは知ってますよ〜」 「みなもさんも知ってるのか。となると、十兵衛さんも知ってる?」 「ん〜、それは分かりませんね」 「もっと修練して強くならないと。ユニタリー・フォームも万能じゃない、というのは頭の中にはあったんですけど・・・今日の決闘(フェーダ)で、身を以って実感しました」 「また、明日から修練の厳しさを上げますよ」 「お願いします!」
その頃の珠緒。 次の休みの日がいつなのかをYU奏のライブスフィアへ送った後、少し考えていた。 臨死体験料理(アルティメット)のことは喜ぶべきことにしても、YU奏の言った「可能性」には驚いた。本当にそこまでのことが自分にできるのだろうか。 先日の大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)での自分の所属騎士団(ユニオン)の成績は中の下と言ったところだ。個人としての成績も騎士団(ユニオン)の成績とさほど変わらない。 このままの状況が続くようであれば、学園(キャメロット)の卒業も危うくなることは目に見えている。それは分かっており、修練にも力を入れている。自分の力で解決することという認識であるが、このような形で解決するということに思うことがないわけではない。 すると、YU奏からライブスフィアを通じて連絡が来た。
「遅い時間にすまない。珠緒の様子が気になったのでな。本当にバックドラフトを使える程の力があるのか?あるにしても、この問題に他人の力を借りていいのか、というところだろう?」 「はい」 「問題を解決する、解決できるのは君自身だ。私や君の周りの友人たちは解決への助力やアドバイスをしているだけに過ぎない。バックドラフトに関して言うなら、出せる潜在力はある。ただそれを引き出す為に君自身以外の力が加わるだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。自分の力だけでバックドラフトを引き出せるようになる者など、あっという間に数えられる程度の数しか存在しないはず。気にしなくていい」 「YU奏さん・・・」 「さて、休みの日のことについての細かいことは改めて連絡する。後でライブスフィアを見てほしい。お休み、珠緒」 「おやすみなさい」
翌朝。YU奏からのメッセージがライブスフィアに届いていた。 「次の休みの日に珠緒の部屋で原因を探るための逆行催眠を行う」と書かれている。 返信後、珠緒は学園(キャメロット)へ向かった。 「何か分かるのかな」 そんな気持ちが珠緒の中にあったが授業と修練に気持ちを切り替えて過ごし、次の休みがやって来た。予定通り逆行催眠が行われ、あることが判明した。 珠緒は過去に料理が関係する火事に遭遇しており、それが珠緒のバックドラフトに影響を与えているということ。だが、その過去を探ろうとすると逆行催眠すら妨げる防衛本能が働くこと。 この件をどう解決するか考えたYU奏は珠緒のライブスフィアにメッセージを送った。
「ええっ!?」 珠緒はYU奏からのメッセージの内容を見て驚いた。 「日本へ行く気はあるか?行くなら共に発つので、チケット等を渡す」という内容だったのだ。 日本へ行ってどうするのだろう、そしてなぜ日本に行く必要があるのかという思いが真っ先に浮かぶ。 「YU奏さん、どういうことですか?」 音声通信で即座にYU奏へ問う珠緒。 「この間の逆行催眠だけでは、珠緒のバックドラフトを具現化するまでには至らなかった。 もう少し、調べる必要がある。ただ逆行催眠すら拒否される程の過去のことが分かれば、珠緒はひょっとすると壊れる可能性もある。逆に過去のことを知って、今のままでいられるなら珠緒のバックドラフトはきっと発現するだろう」 「行きます!休学届に書く日数はどのくらいでいいですか?」 「日本で珠緒のことを聞きまわらねばならない。最低でも2週間、というところだろう」 「移動の時間を含めると、だいたい2週間半は必要ってことですね。じゃ、3週間休学ってことで申請します」 「わかった。3週間を無駄にしない為にも、こちらで先に可能な限り聞き込み候補は絞っておく」 「日本に行って過去と向き合うことができれば、バックドラフトを使えるようなる。そして、アキト君と闘えるようになると信じます!」 「では、チケットを手配してから再度連絡する。それに合わせて休学の期間を書けばいい。それと・・・備考欄に『騎士団(ユニオン)アーサー所属のYU奏からの指示』と書いておくといい」 3日後、珠緒の休学届が出された。備考欄の記載内容が学園(キャメロット)幹部を非常に驚かせ、受理されるに至ったのだった。
日本に戻ってきた珠緒。そして同行者のYU奏。 「疲れた〜」 「珠緒、まだ空港だ。珠緒の家のある町ではないのだろう?」 「はい」 「少し寄りたいところがある。別行動しても問題ないか?」 「大丈夫です。今日は移動日ですし、バックドラフトのことは明日からにしましょう」 「助かる。ありがとう、珠緒」 「私は先に行きますね」 「今夜には合流できるだろう」 そんなやりとりの後、珠緒とYU奏はそれぞれ別行動に入った。 とはいっても珠緒の別行動は実家に帰るだけ。 一方、YU奏はというと。ある町に来ていた。
「ここか・・・和奏の記憶にある町。そして、坂之上の家は」 ある町の旧市街。そこに坂之上の家はあった。 「みーちゃん、元気かな」 YU奏とは全く違う別人格のような雰囲気でYU奏の口から出た言葉。 それは坂之上未奏の双子の姉、坂之上和奏が妹の未奏を気遣うものである。 あまり家の前にいては不審者と間違われるのは目に見えている。 立ち去ろうとすると、誰かが突然抱きついてきた。 「わかちゃん!」 未奏だった。見た目こそYU奏だが、雰囲気が明らかに和奏だったからだろう。 泣いてこそいないが、大粒の涙が目に溜まっている。 「すまないが、私は和奏ではない。和奏の記憶が私にあるのは確かだが」 「ごめんなさい。ついわかちゃんだと。でもわかちゃんの記憶があるって?」 「君の双子の姉である和奏が交通事故死した時、私と波長があったのだろう。死の瞬間に彼女の全ての記憶が私に流れ込んできた」 和奏の記憶が流れ込んできたことをきっかけに、YU奏と名前の表記を変えたのだが、それは言わずにおいた。 「そんなことが・・・わかちゃんの記憶を受け入れてくれて、ありがとう。見たところ、決闘(フェーダ)の騎士なんでしょう?」 未奏はYU奏の手首に付けられているライブスフィアを見て言った。 「そうだ。用があって日本に来た。今日日本についたばかりで、寄りたいところがあると別行動している。これから一緒に来た者と合流する予定だ」 「これからもわかちゃんをよろしく」 「和奏がいたからこそ、日本に来ることになった要因に気づくことができた。私は君たち姉妹が生まれてきてくれたことに感謝する。また、いつかどこかで」 最後の言葉、「また、いつかどこかで」を言ったのはYU奏本人の意思によるものか、和奏の記憶が言わせたものなのかは分からない。 ただ、YU奏にも未奏にも良い出会いだったことだけは確かなことだった。
和奏の記憶が流れ込んでから、YU奏はバックドラフトに対しての感性が高まった。その高まりは味覚として現れた。これが、珠緒の弁当を味わったり、確かめるように食べていたことの真相だ。 「さて、珠緒と合流せねば」 ライブスフィアを頼りに、珠緒と合流したYU奏は珠緒の家に泊まったのだった。
転 トリコロール・リュミエール 翌日から珠緒とYU奏は珠緒の過去を知る人物たちに会い、昔の珠緒のことを聞きだしていった。 それらを総合すると、こういうことだった。
昔、珠緒が友達と料理をしていた時に火事が起きた。 火に包まれた家。出口である玄関とは真逆の端側にキッチンがあった為、玄関に向かうには火の中を突っ切らなければならない。 意を決して、友人と珠緒は玄関へ向かう。しかし、木造住宅であることに加え、非常に湿気の低い日というタイミングの悪さにより、焼けた家の一部が落下し始めるまでの時間がかなり早かった。 このままでは2人とも死ぬ、助かりたい。その一心があることを引き起こす。 珠緒の身に付けている髪飾り。それは微量ではあるがミスリニウムを含んでおり、バックドラフトを発動させることになった。 当時は単なる一般人の珠緒がバックドラフトのことを知っていることも、ましてや制御できるわけもない。それでも無意識に発言したバックドラフト、それも3色のバックドラフトのおかげで玄関までの道を進む。 どうにか玄関まで辿り着いた珠緒と友人。ドアを開けたところで倒れ、救急隊員に担ぎ出された。2人とも病院に運ばれたが、生還したのは珠緒のみであった。 友人を失ったショックに耐えきれなかった珠緒はその時の記憶が封じ込められた。 以後、料理をしようとすると、無意識の拒否反応なのだろうか。珠緒の料理は臨死体験料理(アルティメット)になるということが起きるようになったのだ。
それが分かったことで、まずはその友人の家で亡くなった友人に線香をあげる。 「今まで、ごめんね」 珠緒は今まで忘れていたこと・火事のことを含め、心から詫びた。すると、どこか心が軽くなったというか、背負っていたものが解放されたというか・・・そういう気分のような感覚のようなものを感じた。 その様子にYU奏は珠緒のバックドラフトが発動するであろう予感を味わっていた。
珠緒の休学期間の残りは1週間を切った。休学期間内にアルビオンに戻るには、明日日本を発たねばならない。 「珠緒、アルビオンに戻ったらバックドラフトを使う修練をしよう」 「YU奏さん、ありがとう・・・」 珠緒の部屋で、眠りに着こうとする最中のやりとり。 アルビオンに戻ってからのことに、楽しみと不安が入り混じる珠緒。 「私のバックドラフト、どんなのだろう・・・」 そう思ったのは覚えているが、いつしか珠緒は眠りに落ちたのだった。
翌日。珠緒とYU奏は日本を発った。アルビオンに戻り、アキトやロウ達に帰ってきたことを告げる挨拶をした後、YU奏が珠緒の修練相手を務めた。 「珠緒ならバックドラフトを必ず使えるようになる!」 YU奏にそう言われたが、バックドラフトの新しい発現条件はどんなものか、まだわからない。ただ、やはり自分が体験した火事に関係があるのだろうということは予想している。
珠緒にとって記憶を封じる程の出来事だったあの火事。その時のことを思い出してみる。友人を助けたかった。その思いを、強い思いを・・・ 「火事の時に使ったバックドラフトの力を今、私に!」 珠緒はようやく、バックドラフトを正しく発現させるに至る。 「珠緒、今バックドラフトが瞬間的にだが確かに出た」 「ホントですか!?YU奏さん!」 「本当だ。このまま修練を続けよう、珠緒」 瞬間的な発現であったが、YU奏は驚いた。普通、バックドラフトは1色しかありえない。だが3色だった。見間違ったのかと思ったが、バックドラフトの発された状態の時の空気の味からは、間違いなくあの3色が珠緒のバックドラフトであることが分かった。 YU奏は珠緒の修練相手を続けながら、あることをしようと考えていた。
数日すると、珠緒はバックドラフトを安定して出せるようになった。 しかし、まだ3色が入り乱れた状態でいる。今のままでは単にバックドラフトを出せるようになっただけにすぎない。 「珠緒。今は安定してバックドラフトが出せるようになっている。だが、今のままではバックドラフトを使いこなすには程遠い」 「どういうことですか?」 「特別なバックドラフト、それも今存在する騎士の中では唯一のもの。それを珠緒が持っているということだ。3色のバックドラフトを」 「3色?」 「赤・青・白。即ちトリコロール・リュミエールだ」 「トリコロール・リュミエール・・・」 「今の珠緒のバックドラフトは3色が入り乱れている状況。だが、1色ずつ使ったり、2色・3色を同時に使うということもできるはず。3色のバックドラフトを発現させているのだからな。それに3色のバックドラフトそれぞれに、特性があるはずだ」 「3色のバックドラフトの特性・・・」 「その特性を見極めて扱えるようにならなければ、珠緒のバックドラフトの発現は完全ではない、と私は考える」 「今日の修練が終わったら、3色のバックドラフトの特性について考えます」 その珠緒の言葉の後もしばらく修練を行った2人はそれぞれ部屋に戻った。 珠緒は自分の部屋に、YU奏は珠緒に出会った時のホテルの部屋に。
「3色のバックドラフトか・・・赤・青・白、それぞれどんなものなんだろう?」 自分のバックドラフトに関して思いを巡らす珠緒。 火事の現場を抜けるための力、それが3色のバックドラフトにあったはず。そこを起点に考えてみる。 結果、赤・青・白それぞれの特性で考え付くものがあるにはあった。ただ、それが正しいのかは分からない。明日の修練で確認してみることに決めたのだった。
翌日の修練は単色のバックドラフトの特性を見極めるものに切り替えられた。珠緒からそれぞれの色のバックドラフトの特性と思われる内容を聞き、YU奏も修練内容の変更に同意したからだ。 「珠緒、まずは赤いバックドラフトだ。珠緒の想定通りなら、私と互角に剣を交えられるはず!」 珠緒はバックドラフトを発現させる。火事の時のことを思い出し、YU奏の攻撃を打ち砕く必要のある建材に見立てて、発現しているバックドラフトを赤い色のみに絞り込んでいく。完全ではないが、それでもかなり赤い色のバックドラフトが発現するようになった。 YU奏が珠緒に攻撃を仕掛ける。赤いバックドラフトの力なのだろう、YU奏の攻撃に合わせたカウンターによる気合いの一撃を放つ。 「やああっ!」 珠緒の一撃がYU奏に見事にヒットした。 「なるほど。これが赤いバックドラフトか。カウンターのバックドラフトということだな」 ここまでの修練で珠緒の意気が上がっている様子に気づいたYU奏は休憩を提案した。
休憩している珠緒たちを見かけたのはロウだった。珠緒が騎士団(ユニオン)アーサー所属のYU奏に鍛えられているのは何かあると感じていた。そこで、ストレートに聞いてみることにした。
「おーい、蕨〜」 「あ、ロウ君〜」 「休学明けから、随分鍛えられてるみてえじゃねえか。何かあったのか?」 「それを答えるのはまだ先になる」 珠緒への質問に、YU奏が割って入る。その様子にロウは満足したようだ。 「ま、あんたが鍛えてるんだから、蕨に相当の強さがあるってこったろ?楽しみにしとくぜ」 珠緒という意外な伏兵の存在が本当に楽しみになったロウは、その場を去った。
「ロウ・ロアーズ。柳生第2士団の士団長だったな?」 「はい。とても強いです、ロウ君は」 「・・・ロウ・ロアーズに少しバックドラフトの修練に付き合ってもらうのもいいかもしれない」 「ロウ君にですか?ロウ君には、私がちゃんとバックドラフトを扱えるようになった時に見せてあげたい気もします」 「残り2色のバックドラフトの特性見極めを私が続けることはもちろんできる。ただ、ロウ・ロアーズならスピード系の技を持つ。青いバックドラフトの力と想定される防御や受け流しの力を覚醒させるのに良い修練相手に思えた」 「・・・YU奏さんに残り2色も見極めて欲しいです。YU奏さんのおかげで私のバックドラフトがあるんです」 「分かった。バックドラフトの特性見極めができ、珠緒が完全にバックドラフトを扱えるよう修練をしよう」 「はい!」
休憩が終わると、次は青いバックドラフトの修練に入った。 赤いバックドラフトの時の要領で、3色のバックドラフトから青いバックドラフトに絞り込む。 YU奏が珠緒に攻撃を仕掛ける。今度は手数を重視したスピード型の攻撃である。 最初は手数に押されていた珠緒だったが、だんだん慣れてきたのだろう。今はうまく防御と受け流しを行えているようだ。 「珠緒、赤いバックドラフトも使って攻撃に転じるんだ」 「はい!」 赤いバックドラフトも併用しようと、バックドラフトの発現具合へ少しだけ気を取られた珠緒はYU奏の攻撃に対応することができなくなり、ダメージを受けた。 「すいません。もう1回、お願いします」 結局、この日は赤いバックドラフトと青いバックドラフトの修練で終わったのだった。
赤と青、2色のバックドラフトの修練がさらに数日続いた。その結果、2色のバックドラフトを同時に扱うことができるようになり始めた。 「いいぞ、珠緒!赤と青は段々使えるようになってきている」 珠緒は赤と青の併用で、YU奏の攻撃を対応しきった後、今度は自分から攻撃に入った。 ここまでの修練で、バックドラフトの出し方・単色への絞り方・2色を同時に扱う方法はだいぶ身についている。3色目である白いバックドラフトも扱えるはずだ、という考えがあったからだ。 赤と青のバックドラフト併用から白いバックドラフトへ切り替える珠緒。 「!?白いバックドラフト!?」 YU奏は虚を突かれたが、珠緒の成長の証でもある。白いバックドラフトが発現して以後、珠緒の攻撃に反応が遅れる。突然死角から攻撃が来るのはこうまで連続するものだろうか。ハッと思いつくYU奏。 「これが白いバックドラフトの特性か!?」 死角からの攻撃や思いもよらぬ虚撃(フェイント)の攻撃。そういう攻撃を強化するということなのだろうとYU奏は理解した。 そもそも、珠緒が白いバックドラフトのみを発現した自体、意表をつくものであった。 「YU奏さん、もっと行きますよ!」 その言葉通り、白いバックドラフトも併用した2色攻撃を含め、珠緒の攻撃パターンは格段に増えた。それはトリコロール・リュミエールを成す3色のバックドラフトを完全に扱える寸前まで辿り着いたということだ。後は3色のバックドラフトの特性を全て同時に生かすようにバックドラフトを扱うことができれば、珠緒は自分のバックドラフトを完璧にものにしたと言える。 珠緒の様々な攻撃が繰り出される中、珠緒の練習剣(レイルエール)が折れてしまった。これでは修練を続けられない。 「剣が・・・折れちゃった・・・」 「珠緒のバックドラフトに剣、そしてミスリニウムが耐えられなかったのだろう」 YU奏に言われ、珠緒は剣と剣に使われているミスリニウムを見てみた。 「こんなにボロボロに・・・」 本来なら練習剣(レイルエール)が支給されてから、修練再開ということになる。白騎士は学園(キャメロット)から練習用の武器を支給されているからだ。だが、YU奏はあることを実行に移した。
「珠緒、今日の修練はこれで終わりにしよう」 「でも・・・」 「練習剣(レイルエール)では珠緒のバックドラフトには耐えられない、と言ったら?」 「そんな・・・それじゃ、私はどうすれば?」 「明日の修練は休みにして、私があるところへ連れて行く。そこで、主を待つ武器に珠緒を引き合わせる」 「まさか・・・専用武器(オリジナル)!?」 バックドラフトを使えるようになっただけでもYU奏のおかげなのに、今度は専用武器(オリジナル)までとは完全に珠緒の予想外だった。 「あの武器は珠緒しか扱えないだろう。練習剣(レイルエール)がこうなったのはある意味幸運、いや必然かもしれない」 YU奏にそこまで言わしめるという武器、それが明日目の前に現れるという。色々な気持ちが混ざりながら、今日の修練を終了することを珠緒は受け入れた。
翌日。珠緒とYU奏はある武器工房に現れた。 YU奏の姿を見つけ、工房の職人が対応する。 「YU奏さん!今日はどんな御用事で?」 「主のいなかった、あの武器にな」 「! わかりました。おやっさんを呼んできます」 「職人さん達と仲がいいんですね」 「普通、専用武器(オリジナル)を手に入れるには職人とコミュニケーションが必要だからな」 YU奏が普通のことだとばかりに珠緒に返答し、さらに続ける。 「今回ここに来た目的の武器は単なる専用武器(オリジナル)とは違う。どう違うかは後でわかる」 そこへ職人のおやっさんが現れた。話に上がっている武器を、YU奏に渡した。
「これは私の知り合いの職人、この工房の長が作ったものだ。しかし、今まで剣に認められる主が現れなかった」 そう言って、YU奏は珠緒の前に剣を差し出す。レイピアのような刺突系である。 珠緒は、剣を手に取った。その瞬間、剣が三つ又の矛のような姿に変わった。 「剣が三つ又の矛に!?」 「どうやら、剣が珠緒を主と認めたな。私の予想通りだ」 「予想通り?」 「ああ。長から、『三つ又の矛の姿を引き出すことができる者が、この武器の力の全てを引き出せる者だ』と聞いている。三つ又の矛のを成す部分にアダマンタイールが使われており、普通の専用武器(オリジナル)よりも使い手を厳格に選ぶのだそうだ」
アダマンタイールは液体のアダマンタイトである。希少なミスリニウムは使用者のバックドラフトを変化させるオリハルコンの特性を持つのだが、さらに希少なアダマンタイールはバックドラフトの状態を維持する特性がある。つまり真逆の性質である。また、アダマンタイールは、オリハルコンよりも非常に適合者を選ぶ。それ以上のことは詳しくはまだ知られていない。 バックドラフトは円卓騎士章(インシグマ)保持者でも1種類しか持っていない。それが普通である。だが、珠緒は3色のバックドラフトを持つ。この三つ又の矛であれば、珠緒の3色のバックドラフトを最大限に活用できる。
「これが、私の専用武器(オリジナル)!?でも・・・」 「受け取れない、か?使い手のない武器は意味がない。それに、珠緒と珠緒のバックドラフトは私に答えをくれた。そのお礼なのだ」 「お礼?」 「そうだ。ユノのことは知っているか?」 「シルヴェリアさんやアーシェ姫と共にいることくらいしか」 「ユノは、円卓騎士章(インシグマ)を持つに値するかを見極める判定者の役割をもつアンドロイドだ。アーシェ姫のところにいるユノが現在の最新型なのだが、次世代のユノの話が持ち上がっている。しかし、珠緒に対しては今のユノは正しく判定ができない。珠緒はバックドラフトを3色もつからだ。次世代のユノにどのような機能を盛り込むかに悩んでいたのだが、珠緒のように複数色のバックドラフトを持つものに対する正しい判定を行えるようにすればよいということに思い至った」 「ああ、それで」 珠緒は納得したという表情と声色で反応する。
「今は複数色のバックドラフトを持つのは珠緒だけかもしれない。だが、今後出てくる可能性はあるだろう。ユノが正しく判定できずに、円卓騎士章(インシグマ)を持つべき者に授与されないことは避けなければならない。次世代ユノが完成次第、珠緒にユノをつけたい。正しく判定できるかのテストも兼ねてだが。珠緒には新型ユノをつける価値があると私は判断している」 珠緒はYU奏の自分に対する評価に声が出ない。 「そんなに私を・・・」 ようやく、それを声に出すのが精いっぱいだった。 「専用武器(これ)を使えば、相手が近衛アキトであっても互角以上に闘えるはずだ」 「アキト君と互角以上に!?」 「普通の虚劇(フェイント)、バックドラフトを使う使わないという他に、剣か三つ又の矛か、3色のバックドラフトのどれを使うか?これだけ相手を迷わせられる要素が揃っている。それにユニタリー・フォームは完全無欠ではない。相手が強かったり、それに見合う独自の技を持っている場合に有効だが、武技のレベルがアキト以下の相手にはあまり役に立たない。つまり、珠緒は現時点でアキトを破ることの可能性が一番高い存在、と言っていい」 珠緒はその話を半信半疑で聞いている。 「その反応はもっともなこと。だが、どうするかを決めるのは珠緒自身」 「・・・私、アキト君達と互角以上に闘えるようになりたいです!」 珠緒の意志を確認したYU奏はこの武器を珠緒に渡した。 「これが、今日から珠緒の専用武器(オリジナル)だ。名前はまだついていない」 「何から何まで・・・YU奏さん、ありがとうございます」 珠緒は感謝の気持ちでいっぱいになり、涙声でYU奏に礼を言った。 「私よりも、長に礼を言ってくれ。長がこの武器を作らなければ、こうして渡すことはできなかった」 YU奏の言葉を受け、珠緒は工房の長に感謝の気持ちを目いっぱい伝えた。 武器の使い手が現れたことで、それまで抱えていた荷が下りたとばかりに、喜びと嬉しさが掛け合わされたような幸せな表情を見せる工房の長。 「私、この武器を使わせてもらいます!」 「お前さんなら、大丈夫。使いこなせる!」 長が珠緒に太鼓判を押した。 「はい!」 返事をした珠緒。YU奏と共に、工房を後にしたのであった。
工房から戻る途中、YU奏が珠緒に言う。 「明日は専用武器(オリジナル)に慣れるのと、白いバックドラフトの修練だ。目途がつけば、3色同時の修練に入る」 「はい!」 珠緒は、YU奏にやる気いっぱいという返事をしてみせる。 そこからは、珠緒とYU奏のデートの時間になった。市街地を遊びまわり、珠緒は特に精神的にリフレッシュしたのであった。
更に翌日。まずは白いバックドラフトの修練が開始された。 一昨日までの修練と違うことがある。それは珠緒の武器が専用武器(オリジナル)である・その専用武器(オリジナル)は通常のレイピアの形態をしているということだ。 「いきます!」 一昨日までの修練の復習として、青いバックドラフトを使うまでの剣戟が行われる。 まず珠緒が赤いバックドラフトを発しながらYU奏の攻撃を誘う。対するYU奏は珠緒の誘いに乗って攻撃する。
「てぇい!」 赤いバックドラフトによるカウンターの一撃がYU奏に入ったように見えたが、避けられてしまう。さらに、今度は手数重視の攻撃が放たれる。もちろん、青いバックドラフトを使うように珠緒に仕向けているということだ。 珠緒が青いバックドラフトで、防御と受け流しを行っている最中、YU奏が言う。 「珠緒、ここから白いバックドラフトを使って闘え!」 レイピアの形態と青いバックドラフトの相性が良いのだろう。練習剣(レイルエール)の時よりずっと防御と受け流しがうまく行く。レミリアの疾戟(ウインドシア)を相手にできそうだと珠緒自身が思ってしまう程だ。 青いバックドラフトは防御と受け流しを強化する特性だ。それだけで攻撃は成り立たない。攻撃に転じるには、まず基本は赤いバックドラフト。だが、それではこの修練の意味はない。 今は受け流しから白いバックドラフトによる死角や意表を突く攻撃へ繋がるようにするしかない。 赤と青のバックドラフト併用と同じ要領で、青と白のバックドラフトを併用する珠緒。 その様子を確認したYU奏はそのまま手数で押す攻撃を続ける。 青いバックドラフトで防御と受け流しながら、白いバックドラフトの特性を生かせる攻撃タイミングを狙っていたが、そのタイミングが来た。 「やあっ!」 受け流したYU奏の攻撃の1つから白いバックドラフトの特性を生かした死角攻撃を放ったのだ。 普通であれば食らうものだが、YU奏はそれを防いで見せた。 「いいぞ、珠緒!。さらに行くぞ!」 白いバックドラフトの修練が続く。修練の厳しさは随分と早く珠緒の体力を奪ったようだ。かなりキツそうな表情を浮かべる珠緒。 「珠緒、休憩だ。今のままでは修練を続けるには無理だ」 返事の代わりに頷く珠緒。しばらく休憩すると、白いバックドラフトの修練が再開となった。 「白いバックドラフトの修練の結果を見せるんだ!」 珠緒にYU奏の手数を生かすスピード攻撃が放たれる。 それまでの修練の成果が出たのだろう。今までの修練よりスムーズに赤と白、青と白のバックドラフト併用攻撃を放つ珠緒。 珠緒の攻撃を防御してから修練を中断するための一撃が放たれた。 「珠緒、よくやった!」 YU奏が珠緒を褒める。 「2色のバックドラフト併用までものにできたと言っていいだろう。後は、珠緒だけで修練していける。残る3色併用は明日からの修練だな。今日は終わりにしよう、珠緒」 「はい」 珠緒は3色併用について、1つ使えそうなパターンを思いついていた。それが使えるかどうかこれからの修練で試そうと考えたのだった。
3色のバックドラフト併用の修練が始まった。 まずはYU奏の攻撃を誘う。しかし、今回のYU奏は手数で押してくるような攻撃はしてこない。修練しても、実戦で使えなければ何にもならない。その為、より実戦向きの修練を、ということである。
青いバックドラフトを使いながら、YU奏に接近する珠緒。自分の剣がYU奏に届く間合いになった瞬間。青いバックドラフトを引っ込め、専用武器(オリジナル)を三つ又の矛に変わらせ、白いバックドラフトに切り替える。 今までの修練では、専用武器(オリジナル)を三つ又の矛にすることはしていなかった。 青と白のバックドラフトを併用する場合。 剣に近い側に青いバックドラフト、その外側に白いバックドラフト。そういう形での併用をしていた。
「これも、白いバックドラフトを生かすということか」 納得はできたものの、死角からの攻撃や虚撃(フェイント)には今まで以上に注意を払わなければならない。珠緒の専用武器(オリジナル)は三つ又の矛姿を見せており、武器の能力は全開になっていると考えた方が良い為だ。 攻撃は最大の防御とばかりに、白いバックドラフトでの攻撃をさせないようYU奏が一撃を放つ。 が、これは珠緒の狙った囮だった。即座に赤いバックドラフトを発現させ、カウンター型の死角攻撃を放つ。この一撃はわずかではあるが、YU奏を捉えた。 対アキト戦程ではないが、YU奏もバックドラフトを発動する。珠緒の修練にはずっと剣を使っていたが、バックドラフトを一切発現する必要はなかった。指導の為もあるが、正直珠緒の強さはバックドラフトを発現するに値しなかったのだ。 「私もバックドラフトを使わねばならないな。行くぞ、珠緒!」 バックドラフトありの攻撃がYU奏から放たれる。
珠緒は実感する。バックドラフトによりYU奏の攻撃の質や攻撃の際の重さが変わったことを。 「これが、バックドラフトを使う相手の力・・・」 「今は単純にバックドラフトを出しているだけだ。だが、私の攻撃の質や攻撃の際の重さが変わったことは分かるはずだ」 バックドラフトを出していなかったYU奏なら、2色併用までで何とかできるかもしれないという淡い期待もあった。だが、今のYU奏相手にはそんなものは消えている。 「3色併用しか・・・」 珠緒自身は、打てる手はそれだけと分かっている。珠緒の力を本当に認めたYU奏が暗に「3色併用して見せろ」と言っているのも。 ようやく、珠緒の考えを試す時が来たと判断した珠緒はスピード型の連続突きを放つ。 YU奏は防御することも、珠緒の突きに対抗することもできる。今回の選択は後者。 スピード型の突きで珠緒の攻撃を中和し、さらに連続突きで珠緒を攻撃する。 珠緒は即座に青いバックドラフトを発動させて凌ぐ。さらに赤と白のバックドラフトを青いバックドラフトの外側に連ねるイメージで、剣に近い側から青・赤・白のバックドラフトを発現させようとした。しかし、単純にバックドラフトを出す時とは勝手が違う。何せ意識したうえで、3色のバックドラフトを発現する必要があるのだ。 「はぁあ!」 不完全な3色のバックドラフトの攻撃が放たれるが、バックドラフト状態のYU奏に届くことはない。YU奏が珠緒の攻撃を捌いたからだ。 「珠緒、いいバックドラフトの攻撃だ。バックドラフトを意識的に3色扱う修練がまだまだ必要だが、それでも近いうちに近衛アキトと闘って大丈夫だろう」
YU奏の言葉を聞いた珠緒は、さらに数日の修練を重ねた。その結果、珠緒の意図した3色のバックドラフト併用の基礎は身に着いた。 「本来なら、学園(キャメロット)に珠緒のプロフィール更新を申請してもいいかもしれないが、武器の項目を更新するだけで色つきになったことを感づかれてしまう。ここはあえてプロフィールの更新はしないでおくのも『あり』だ」 「ロウ君に青いバックドラフトの覚醒を手伝ってもらう案を断ったんだから、アキト君との試合が終わるまでプロフィールは更新しないでおきます」 「よし。それならもうしばらく私と修練だ」 2週間の修練の後、YU奏は珠緒が完全にバックドラフトを自分のものにしたと判断した。 そして・・・
結 非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ) 珠緒対アキト! 珠緒がライブスフィアでアキトに音声連絡する。 「アキト君。私と決闘(フェーダ)を。私がアキト君を破れる可能性のある存在か確かめて」 「わかった。決闘(フェーダ)の日時はこちらで決めて構わないか?」 「うん」 「細かいことを決めたら、珠緒に連絡する。決闘(フェーダ)、楽しみにしてる」 「待ってるね」 こうして音声連絡は終わった。
「珠緒、ついに近衛アキトへ決闘(フェーダ)を申請したか」 「どこまで通じるか分からないけど、全力でアキト君と決闘(フェーダ)します」 「大丈夫だ。今の珠緒は近衛アキトに勝てる可能性がある」 「YU奏さん・・・」 「珠緒の決闘(フェーダ)、見届けさせてもらう」 「はい!」
珠緒がしっかりと決闘(フェーダ)に対する気持ちを高めたのを見計らったかのように、アキトから「連絡する」と言っていた件が来た。今度はメールだ。 「5日後、非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)にて。場所は・・・」 その内容について、もう一度アキトと連絡を取る珠緒。 「アキト君、非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)だけど・・・私はYU奏さんに見てもらいたいから来てもらうつもりなの。アキト君がこの決闘(フェーダ)を見せたい人がいたらその人たちに声かけて。私もYU奏さんの他に見てもらいたい人を呼ぶから」 「わかった。ユリナ達に知らせておく」 「うん!」
2度目の音声連絡が終わったところで、YU奏が珠緒に声をかける。 「珠緒、私の方でこの戦いを見せたい人物に心当たりがある。構わないか?」 「?」 珠緒は誰を呼ぶつもりなのかという疑問をあからさまに浮かべた。 「誰を呼ぶつもりか、とういことならば2人程な。シルヴェリア・レオディールとアーシェ姫だ」 「えぇっ!」 「あの2人に珠緒のバックドラフトを見せる価値がある、と私は考えている。あの2人にはユノがいるからだ。最新世代のユノが完成したら、珠緒につけるつもりだと言ったろう?」 ユノをつける、ということは円卓騎士章(インシグマ)授与候補として認められたと同義であることは以前YU奏から聞いていた。つまり、この戦いを見せることで、珠緒に今後ユノがつくと示す意味があるということだ。 「シルヴェリアさんとアーシェ姫が私の決闘(フェーダ)を見るのをやめないようにしなくちゃ」 「シルヴェリア・レオディールとアーシェ姫を呼ぶこと自体には反対はないということだな。私の方で手配しておく」 YU奏はシルヴェリアとアーシェ姫にライブスフィアでメールを送った。
「騎士団(ユニオン)アーサー所属のYU奏より、非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)に招待す。貴君ら、裁定者ユノと共にある者ならば、この決闘(フェーダ)に刮目せねばならぬ。該当決闘(フェーダ)は近衛アキト、蕨珠緒の両名にて闘うものなり」 シルヴェリアとアーシェ姫は騎士団(ユニオン)アーサー所属のYU奏がこうまで言う決闘(フェーダ)ならば、確かに見ておくべきだろうと判断した。 ただ、シルヴェリアとアーシェ姫には大きな感じ方の違いがあった。それが、招待の意志を示す文に続いている決闘(フェーダ)に臨む騎士の名前。アキトはともかく、珠緒については違っていた。シルヴェリアは「以前修練したことがあったが、それほどの強さではなかった」と珠緒のことを思い出したこと。アーシェ姫は単なる無名騎士としてしか認識しなかったので、なぜアキトが無名騎士と闘う決闘(フェーダ)の観戦招待を受けたのか疑問を持ったということだ。
珠緒は5日後の決闘(フェーダ)に向けた修練を行い、自らのピークを5日後になるよう持って行った。すぐに決闘(フェーダ)を行う5日後がやって来た。
非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)の会場。ここにはある程度の人数の観戦者のみだった。だが後1人、この会場にいる。柳生士団の士団長、柳生十兵衛だ。用事を終えて帰ってきたところに、強い者達が集結しているという「闘いの匂い」を感じて、惹きつけられるように追いかけてきたのだ。 「シルヴェリアの野郎、何しにこんなとこへ?」 観戦者達とはずっと離れた場所にいる十兵衛から、そんな疑問が口に出る。 「アキトの決闘(フェーダ)か。相手は・・・誰だ?ありゃぁ」
アキトの所属するリディアル・エレアノルトの面々、それにユリナとレミリアに仕えているメイドのマリエルとセレーネ。珠緒のバックドラフトを見出し、修練したYU奏。珠緒が自分のバックドラフトを見せたいと考え招いたロウ。YU奏が観戦招待したシルヴェリアとアーシェ姫。また、それぞれの騎士団(ユニオン)の面々もいる。 アキトと珠緒以外を合計すると14人。14人でも観客がこの面子となれば、そんじょそこらの騎士では緊張の度が過ぎてしまうだろう。だが、珠緒もアキトも適度な緊張とリラックスを維持している。
「珠緒、強くなりましたわね」 レミリアが珠緒の様子を見て言った。以前、大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)予選の際に闘った時のような雰囲気は感じられない。さらにレミリアが疑問を口にする。 「ですが、珠緒の持っているのは・・・専用武器(オリジナル)ですの?珠緒がバックドラフトを使えるようになったと?」 「さあな。だが、あれはレイピア系の剣か?あの剣の柄、まるで普通の剣だ。レイピアとなれば、刺突速度を妨げないような柄にするか、持ち手を保護するような柄にするはずだ」 天音が違和感を口にする。 「多分、あの剣には何かある。だからこそ、あの柄になっているのでしょう」 「あの剣にある何か?」 ユリナが柄の疑問に対する予想というか、当然想定されることを返答する。それに対して、ミリィがどんなことなのかと問うた。 「きっと、お楽しみってことですよ」 マリエルが緊張感を緩めるようなニュアンスで言い放つ。
「蕨のバックドラフトを生かせるモンだろうさ」 ロウがリディアル・エレアノルトの面々の台詞を聞いてから、呟くように言った。 「確かに、その可能性はありますね」 以前柳生士団の第3士団長を務めたこともあるセレーネが同意する。 シルヴェリアの騎士団(ユニオン)とアーシェ姫の騎士団(ユニオン)はそれぞれ、静かに決闘(フェーダ)の開始を待っている。 いよいよ開始時刻が近づく。珠緒とアキトが会場の中央で相対する。珠緒もアキトも集中力を高める。そして、決闘(フェーダ)の開始時刻になった。
「掲げる剣に、誇りと名誉、騎士の矜持を―――」 「交える刃に、畏怖と礼節、己が全霊を―――」 前半をアキトが、後半を珠緒が宣誓し、さらに続く。 「決闘(フェーダ)、開戦!」 2人の声が重なり、ついに闘いの火蓋が切って落とされた。 修練の成果で珠緒の技量が上がっているとはいえ、まだアキトと互角という程ではない。 「立ち上がりは静かというか、ごく普通だな」 「何だ、これは。こんな決闘(もの)を見なければならないのか?」 シルヴェリアは普通に見ているが、アーシェ姫はひどく不機嫌に変わっている。 だが、アーシェ姫の不機嫌な時間は長くは続かなかった。
頃合を見計らって、珠緒が赤いバックドラフトを発現する。 「ここ!」 アキトの攻撃に合わせた赤いバックドラフトによるカウンター。見事にヒットして、アキトのライブスフィアが体力値5%減を告げる。 「バックドラフトを使えるようになっていたのか!専用武器(オリジナル)を使っているから、その可能性があるとは思っていたけど」 バックドラフトの攻撃を食らって、5%減で済んだのは幸運だとアキトは思った。間合いを取って、仕切り直す。 「アキトを相手に先制するとは。やるな」 珠緒の決闘(フェーダ)を見て、シルヴェリアが評価した。 「私が見ているんだ、このくらい出来て当然だ」 反対に、アーシェ姫が辛口の言葉を告げた瞬間。 YU奏以外の観戦者の誰もが信じられなかった光景が展開される。 珠緒が2色目のバックドラフトを出して見せたのだ。 これにはさすがに珠緒の相手であるアキトも驚きを隠せない。 「アキトの相手、面白ぇ!今は弱っちい感じがするが、これから強くなるぜ。あんな奴がいんのかよ!」 無類とも言われることすらある、十兵衛の闘い好き。 「こんな面白ぇ決闘(フェーダ)、止めるなんぞ無粋だな しかし、様子を目にした結果、引き続き決闘(フェーダ)を観戦することにした。
「赤いバックドラフトに青いバックドラフトか。とんでもないバックドラフト(もん)を持ってるなっ!」 そう言いながら、攻撃を仕掛けるアキト。珠緒はアキトの攻撃を全て防御・受け流す。 「てええい!」 そして赤いバックドラフトを併用し気合いの乗った一撃をアキトへ放つ珠緒。 「っ!あぶねっ!」 辛うじて防ぐアキト。
「な、なんですの!?珠緒のバックドラフトは!?」 「2色のバックドラフトですか、これはお嬢様では太刀打ちするのが大変そうですね」 レミリアの驚きに、セレーネのSっ気炸裂のツッコみが入る。 「なるほど。これがYU奏が観戦招待した理由か。確かに、これなら観戦に値する」 先程まで不機嫌だったのはどこへやら、アーシェ姫はしっかりとこの決闘(フェーダ)を見る気になったようだ。
「まだまだ!」 珠緒は攻撃をさらに続ける。珠緒の剣技はアキトと比べれば見劣りするが、それを充分打ち消しているのは珠緒のバックドラフトだ。 対するアキトは2色のバックドラフトを持つ相手と闘うこと自体が初めてで、攻めあぐねている感は否めない。
「珠緒、これならどうだ!」 アキトから虚撃(フェイント)を交えた攻撃が放たれたように見えた。見えた、というのはアキトの攻撃がされる前に、珠緒の攻撃がアキトにヒットしたからだ。 アキトのライブスフィアが体力値10%の減少を告げる。 「10%も減ったのか・・・なるほど、それも珠緒のバックドラフトか」 「うん。この白いバックドラフトもね」 珠緒の剣には赤と青のバックドラフトではなく、白いバックドラフトが発現していた。
「白いバックドラフトですか、あれは厄介そうですね〜」 マリエルがのんきに白いバックドラフトに対する感想を呟く。 「赤・青・白。なるほど、トリコロール・リュミエールというわけね。赤はカウンター、青は防御や受け流しみたい。だとすると、あの白いバックドラフトは・・・? ユリナは珠緒のバックドラフトの特性を赤と青については把握しているが、白いバックドラフトの特性は分からないとこぼす。 「もうしばらく様子を見ないと正しいかわかりませんが、私の思い当っているもの通りだとすると、珠緒はかなりの強敵です。珠緒を相手にすること自体で、ユニタリー・フォームは封じられていますし」 天音がユリナの言葉に続けた。 「お嬢様にはほぼ勝てない相手ですね、珠緒様は」 セレーネの容赦ない一言にレミリアは凹んだ。 「セレーネ、少しは私のことを」 レミリアがそこまで言った時、アキトがバックドラフトを発現した。 「3色のバックドラフト、確かに闘い甲斐がある。行くぞ!」 アキトのバックドラフトの特性は、「相手に対抗する」特性だ。 相手が柳生十兵衛のようなパワータイプであればパワーを増し、ロウのようなスピード型であれば、スピードタイプになる。のだが、そのどちらでもない珠緒には、アキトのバックドラフトも相性が悪い。
珠緒の攻撃を仕掛けて攻め続ける。しかし、ところどころアキトの攻撃がヒットすることで、珠緒の体力値を減らしてはいる。現在はアキトが20%減、珠緒が25%減だ。元のパワーや剣の重さといったことにより、攻撃力が大きいのはアキト。珠緒がチマチマ削っても、アキトの攻撃が1回当たれば、帳尻合わせになるかもしくはこちらの残り体力値の方が減ってしまう。 このままでは分が悪いことを認識している珠緒は、アキトに必殺技クラスの攻撃をさせるための賭けに出る。 大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)の際、レミリアが見せた一撃必殺系のスタイルをまねたのだ。もちろん、赤と青のバックドラフトを併用して。 「アキト君、もっと強く攻撃して構わないよ!」
「珠緒、私のスタイルで何をするつもりですの?」 真似されたレミリアは怒りと不思議さの入り混じった口調で、そう言った。 珠緒の挑発にアキトが乗る。大決闘祭(ヴァルトーク・フェーダ)のシルヴェリア戦で習得した五条纏う閃光(ブリューナグ)を放つ。珠緒の3色目のバックドラフトの白いバックドラフトが発動しようと、五条纏う閃光(ブリューナグ)が当たれば珠緒を倒せる。 「五条纏う閃光(ブリューナグ)!」 挑発を受けた時は確かに赤と青のバックドラフトだった。それが、今は青のバックドラフトだけだ。青いバックドラフトを発現している珠緒は、5発の攻撃を2発防いだ。もし珠緒の力がアキトくらいにあったなら、青いバックドラフトは全て防いでいたのかもしれない。 珠緒のライブスフィアが、体力値50%減少を告げるのが聞こえる。これで決闘(フェーダ)開始時の体力値から75%減。五条纏う閃光(ブリューナグ)程でないにしても、次に大きな攻撃を食らえば、負けが見えてくる。 しかし、そんなことは気にせずに青いバックドラフト発現状態からさらに赤と白のバックドラフト併用攻撃を仕掛ける。 五条纏う閃光(ブリューナグ)を仕掛けたアキトは攻撃直後の隙に珠緒からのバックドラフト併用攻撃を受け、ライブスフィアから体力値25%減が告げられる。これで試合開始時から比べると体力値が半分になった。
「このような者がいるとは・・・しかし、まだ何かあるような気がするのは気のせいか?あの剣の柄がレイピアにしては不釣り合いなのが気になる」 シルヴェリアはそう言った。 「なかなか面白いな、ヴァリウス」 アーシェ姫が、執事兼従者とも言うべき騎士団(ユニオン)のメンバーであるヴァリウスに言う。 「はい、アーシェ姫。正直、この決闘(フェーダ)が始まった時は見るに値しないと思いましたが、よもやこのような決闘(フェーダ)になるとは」 「アーサーのYU奏が我々を観戦させるに招待してきた価値はある。3色のバックドラフトなど、世界中の騎士でもあの娘1人だろう」 「は、おそらくそうでしょう」
珠緒には、アキトの体力の残り半分を削りきる必殺技はない。だが、まだ隠している手はある。それを絡めて、まずはアキトの体力を自分と同じにするしかない。 積極的な攻撃を珠緒が仕掛けるも、アキトはそれを捌ききる。一旦仕切り直し、とばかりに珠緒が離れた瞬間。珠緒の剣の間合いからは明らかに離れているのに、攻撃が飛んでくる。それも白いバックドラフトのおまけ付きだ。 「!?」 アキトはどうにか防ぐ。 この攻撃が出来たこと、それは剣に理由があった。剣が三つ又の矛のような姿に変わり、全長が大きくなっていたのだ。 「やはり、白いバックドラフトは死角や意表を突くという特性か。まさかとは思ったが」 「3色の中でも、特に赤いバックドラフト。あれを必殺技級の攻撃に対応されたら、自分の受けるダメージの方が大きくなりますね」 天音の言葉に、ミリィが続ける。 「あらあら。そうなると、アキトさんは勝つのに苦労しますね〜」 相変わらずマリエルは暢気に言っている。 「おいおい、俺の双ね颱風(タービュランス)みてーなもんかよ」 ロウは珠緒の武器を見て、思わず口にした。
「珠緒の専用武器(オリジナル)、すげえな。でも、その三つ又の矛姿の方はそれほど使ってないだろ?使い慣れてる動きじゃないからな」 「その通りだよ。でも3色のバックドラフトとこの武器の形態の使い分け。これで充分戦えるって私は信じてる」 確かに珠緒の言うことももっともなところはある。普通はバックドラフトのオンオフと虚撃(フェイント)を中心に考えれば事足りる。だが、珠緒に対してはどの色のバックドラフトが使われるのか、剣の形態か三つ又の矛のような形態かということも考えねばならない対象となる。考えねばならない量が倍はあるのだ。 珠緒は引き続き三つ又の矛姿の武器を使う意志を示している。矛の部分に、それぞれ赤・青・白のバックドラフトを発現させているからだ。
「面白いな、蕨は。武器の一部分にそれぞれのバックドラフトを割り当てるなど」 「珠緒、まだ未熟。でもアキトに対抗できてる」 デュラクディールのメンバーがシルヴェリアに答える。 シルヴェリアの騎士団(ユニオン)、デュラクディール。湖面を意味するデュラクと、レオディール家のディールを使った騎士団(ユニオン)名だ。 所属しているのはシルヴェリアとユノのみ。シルヴェリアがあまりに強い為、騎士団(ユニオン)は2名までという非常にイレギュラーなルールを適用されているのだ。 ユノは珠緒の実力を未熟と評価したが、評価したこと自体珠緒を認めたということだ。 「ユノが珠緒を認めたとなると、私も気を引き締めねばならないな」
珠緒の攻撃が始まった。3色のバックドラフトが常に発現し、武器上に維持されている。剣の時と違い、バックドラフトの使い分けはしやすいようだ。ただ、欠点もある。懐に入られたら、剣よりも弱い。 珠緒の攻撃に対応しつつ、アキトは懐へ入ろうとする。オーソドックスな対応ではあるが、剣と三つ又の矛、2つの姿を持つ武器にはそれは叶わない。 それだけではなく、3色のバックドラフト攻撃を混ぜられては正面切って懐に入るのは不可能だ。死角からというのも、白いバックドラフトを持つ珠緒には無理に近いだろう。 「さて、どう出る?近衛アキト」 YU奏がアキトの出方に注目する。
自らのバックドラフトの強さの段階(ギア)を上げ、1点を突く攻撃を行うアキト。 柳生十兵衛戦の時のようなパワータイプの攻撃にしている。青いバックドラフトと赤いバックドラフトの併用に対抗する為だ。白いバックドラフトのことは、今は無視している。この決闘(フェーダ)での珠緒からの攻撃を受けての体力値減少からすると、残り体力値を一気に持って行かれる可能性は低いと判断したのだ。 青いバックドラフトを全開にして、防御・受け流す珠緒。アキトの攻撃の重さから、赤いバックドラフト対策であると感じとり、白いバックドラフトでの一撃を入れる。 この攻撃でアキトの体力値が5%減少。アキトの体力値は開始時から55%減、珠緒の体力値は75%減。まだ開きがある。このまま闘い続けると、自分の方が負けると珠緒は感じ、何か手はないのかと考える珠緒。しかし、何も浮かばない。 対してアキトは何か手ごたえというか、何かを掴んだ様子の表情だ。
「珠緒のトリコロール・リュミエール、破ってみせる!」 アキトが珠緒に宣言する。当然、この宣言は観戦者達をアキトに注目させた。 「行くぞ、珠緒!」 アキトは手数勝負のスピード型攻撃を仕掛けている。それはロウの双ね颱風(タービュランス)を思わせるが、一撃が遥かに今までより重くなっている。
「珠緒にバックドラフトを切り替えるタイミングを与えない作戦ね」 なるほどと納得しながらユリナが言う。 「珠緒の様子からすると、手数で押しているだけではなく、一撃一撃がかなり重いようです。柳生十兵衛のようなパワー攻撃を、ロウの双ね颱風(タービュランス)のような速度で行っているのでしょう。あれでは、自分の体力値を減らしてしまう可能性もあります。それは分かったうえで、アキトも仕掛けているはずです」 天音の言葉に、リディアル・エレアノルトの者達はどれだけとんでもないことなのかと舌を巻いた。
「青いバックドラフトを全開にしてなかったら、多分あっという間に終わってた。でもこのままでも体力値を削られて終わっちゃう。それなら!」 強引に前へ出て、アキトに接近する。体力値を削られていくが、それでも何とか残っている。珠緒の体力値は残り10%。危険域に入ったとライブスフィアの音声警告が出る。 一方、アキトもかなり無茶な攻撃に体が悲鳴を上げており、体力値の減少が起きていた。 珠緒に比べれば残りは多いが、それでも残り15%。 矛の攻撃範囲に入ったが、その段階では珠緒の攻撃は出ていない。さらに近づいて、剣での攻撃範囲でようやく珠緒が攻撃する。 矛のそれぞれに維持している3色のバックドラフトを元のレイピアのような剣に戻す時に意図的に混ぜ合わせ、全ての色のバックドラフトの特性を持つ特別な一撃にしようと考えていたのだ。 三つ又の矛から剣の姿に戻しながら、全ての色のバックドラフトを融合しようとする珠緒。その様子に本能的に危険を感じるアキトだが、今行っている攻撃を止めるには攻撃は重過ぎ、速度は出すぎている。今この瞬間が、珠緒が勝つ唯一の瞬間。それを2人とも感じ取っていた。
「この、一撃に、わたしの、すべ、てを!」 体力値が間もなくゼロに近づこうとしており、息の上がる珠緒が最後の攻撃を放つ! 剣を覆う融合バックドラフト。見事にアキトを捉えるが、珠緒は体力を削りきられた。 「残り体力値計測中・・・」 全精力で攻撃を行い、倒れこむ珠緒。 アキトのライブスフィアから聞こえる音声。次に音声が聞こえた時、この試合に勝者が生まれるのか、引き分けなのかを告げる。 「近衛アキト、体力値ゼロ。よって、この試合引き分けです」 この様子に、観戦者達は驚いた。 「アキトが引き分けとは。蕨、大したモンだぜ」 ロウが珠緒を褒める言葉を呟く。
「引き分けと言っても、負けた気分だ。珠緒がこれほど強いとは」 「私がもう少し強かったら、アキト君に勝てたってことだね」 アキトは苦笑しながら、珠緒に手を差し伸べた。 「立てるか?珠緒」 アキトの手を取り、立ち上がる珠緒。 そこへYU奏がやって来た。
「珠緒、よく戦った。近衛アキトを相手に引き分けるとは」 「YU奏さん・・・」 「近衛アキト。お前の父、近衛シュンエイの使うユニタリー・フォームを私は体験している。お前のユニタリー・フォームはまだまだだ。シュンエイの使うユニタリー・フォームは本当に隙がない」 「はい!もっともっと修練して、親父を超えるユニタリー・フォームを身に付けます」 「大きく出たな。だが、そのくらいの方がいい。我が騎士団(ユニオン)アーサーの次世代候補として認めるのだからな」 「!!!」 「YU奏さん、前アキト君と非公式決闘(アンオフィシャルフェーダ)した時のアレ、本気だったんですね!」 「俺はユリナ姫の騎士団(ユニオン)、リディアル・エレアノルトでずっとユリナ姫を守っていく、そう決めてる。だから、アーサーに所属するつもりはない。それだけ評価してもらえるのは嬉しいやらびっくりやらだけど」
「アーシェ姫!シルヴェリア・レオディール!見ての通り、珠緒の強さは分かってもらえただろう。それにこのバックドラフトのこともある。次世代のユノが完成次第、珠緒にユノをつけることを伝えておく!」
YU奏の言葉に、デュラクディールのユノとアーシェ姫の騎士団(ユニオン)にいるユノ。2人のユノが特に反応した。ユノは見た目と決闘(フェーダ)に用いる武器が大鎌であることは同じだが、性格は違う。 「ユノ、YU奏の言葉に同意」 デュラクディールのユノは賛成の反応。 「確かに3色のバックドラフトとアキトを相手に引き分けは大したもの。でも円卓騎士章(インシグマ)候補まではやりすぎ」 アーシェ姫の騎士団(ユニオン)にいるユノは反対の反応。 「良いではないか。こんな面白い決闘(フェーダ)が見れたのだ。蕨珠緒、覚えておこう」 アーシェ姫は珠緒へ評価が決闘(フェーダ)前に比べると、まるで違う。それだけ珠緒を認めたと言えるだろう。 「蕨に負けないよう修練しなければ」 シルヴェリアはアキトとは違うタイプの面白い騎士が現れたことを本当に喜んでいた。珠緒を相手に決闘(フェーダ)をしたいと思ったのだった。
「蕨、すげえ闘いを見せてくれやがって!」 「ロウ君・・・」 「ホンっと、すげー闘いだったぜ!見てるだけなのに、こんな面白ぇ決闘(フェーダ)、そうそうないぜ」 珠緒でもロウでもない第3の声は柳生十兵衛だった。 「姉御!いつから!?」 「この決闘(フェーダ)が始まる直前くらいに戻ってきてな。何か、強そうな連中が固まってる匂いがしてな。で、来てみたってわけだ。アキトが闘う程の決闘(フェーダ)でなけりゃ、ぶっ壊してやろうと思ってた。が、あの戦いぶりだ。アキトよりも相手の方が大丈夫なのか、って見入っちまった。おい、お前珠緒とか言うんだろ?」 「はい」 「覚えとくぜ!いつか決闘(や)りあおうぜ!」 「はい!」 今度は力強く返事をする珠緒。
YU奏が声をかける。 「珠緒、共に過ごせて楽しかった。それに次世代ユノのことに関する答えももらえた。ありがとう」 「YU奏さん、私も臨死体験料理(アルティメット)の真実が分かって・・・バックドラフトも使えるようになって、専用武器(オリジナル)まで・・・ありがとうございますっ!」 「この先、修練を続けてもっと強くなるんだ。私が珠緒を所属させるのが当然、というくらいに」 頷いて見せる珠緒。少しだけ涙がこぼれている。 「では、またな。珠緒」 YU奏はそう言うと、会場を出て帰って行った。
アキトとロウは臨死体験料理(アルティメット)の真実とは何だろうと首を傾げあった。 珠緒が十兵衛に声をかける。 「十兵衛さん、もしよければ私の料理食べてください」 「お、いいのか!?助かるぜ!」 「姉御!蕨の料理は」 「十兵衛さん、珠緒の料理は・・・やめた方がいい」 「あん!?珠緒(こいつ)の料理は美味いって、あたしの勘が言ってんだ!文句は言わせねぇ!」 珠緒の申し出を受け入れた十兵衛を止めようとするロウとアキトだが、嗜められてしまった。 これ以上止めたら、ロウとアキトの身の方が危なくなる。 「分かった、分かった。姉御、倒れても知らねえからな」 仕方なく十兵衛の判断を受け入れることにしたロウ。 アキトの方は、ちょうど良いタイミングでユリナがアキトを呼んだ。
「アキト〜」 ユリナ達がアキトの元にやって来る。 「アキト、随分と無茶をしたな」 「珠緒の3色のバックドラフトを相手に、よく引き分けましたわ」 「引き分けになったけど、負けた気分だ」 天音とレミリアの言葉に返すアキト。 「さすがお嬢様、アキト様の傷を抉るとは。人のことを察せないのはもはや天性のレベルですね」 「セレーネ〜!」 レミリアはセレーネにいじられている。 「お兄様、大丈夫ですか?」 ミリィがアキトを気遣う。 「大丈夫だ。ありがとう、ミリィ」 返事をしながら、アキトは頭を撫でた。ミリィは喜んでいる。 「アキト、お疲れ様。でも、とんでもない強敵が現れたわね」 「珠緒があそこまで強いとは思わなかった。相手を甘く見ていた証拠だ。これからはどんな相手と当たっても全力で気を抜かずに闘う」 「ええ、お願いね」 ユリナはアキトを労いながらも、卒業とその先のことを意識していた。 「今夜はアキトのお疲れ様会するわよ!マリエル、準備をお願い!」 ユリナの一
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