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きまぐれ雑記帳(759)
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2020/12/31
カテゴリ: きまぐれ雑記帳 :
執筆者: gf-tlvkanri (10:25 pm)
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Fani通2019下半期用に原稿提出していたもの。 40字/行で、約700行。 図書館戦争のイラスト集?か何かが出るという話があるようなので、 今年(2020年)の内に公開することにした。 以下、数行の改行の後に本編開始。 ニル・アドミラリの天秤&図書館戦争番外編 2対の稀モノ 白と黒 あらすじ 図書隊の保管庫に保存されていた歴史書扱いの肉筆和綴じ本。それは稀モノであり、触れた者をどこかへと飛ばす吸い込み能力のアウラを持つものだった。その本に触れた郁、郁を引き戻そうとしたができなかった堂上が飛ばされたのは昔の日本の世界。そこに存在する帝国図書情報資産管理局、通称フクロウの力を借り、自分達のいる世界である正化へ戻ろうとするのだった。 これは久世ツグミ、そして図書隊2人の不可思議な物語。 起 図書隊と帝国図書情報資産管理局(フクロウ) 今日は図書隊の保管庫整理の日。郁と堂上は非番なのだが、人手不足ということで借り出されていた。普通の非番の日と違うのは、「汚れてもいい服装で」ということだったので図書隊の制服姿であることだ。 「こんなに本があるのに、それでも世に出た本全てではないのよね……」 大変さをこれでもかと全面に押し出しながら郁が呟いた。 「政府が気に入らない本を片っ端から処分しているからな」 堂上は悔しさの籠った一言を郁に返した。 2人は保管庫整理の手伝いを進め、歴史書の一角へと手を出した。 「?この綴じ方、普通の本と違う?」 郁がある本を見つけ、背表紙がなく綴じ方が普通とは違うことに疑問を持った。 「どうした?」 堂上が郁の様子を見て声をかける。 「ああ、それはいわゆる和綴じ本だな。印刷技術が普及する前の時代にはよくあった本だ」 「和綴じ本……でもこれ、何か普通と違う感じが」 そう言って、郁が和綴じ本に触れた瞬間。郁の姿が本の上空に吸い込まれ消えようとしている。その様子を見た堂上は郁を引き戻そうとするも、郁と堂上の2人は共に消えてしまった。後には和綴じ本だけが残っていた。そのアウラはブラックホールのような黒であったことは誰も知ることはできないのであった。 2人は見たこともない世界にいた。一体ここはどこなのか。自分達のいるどこかの路地裏からまわりの様子を見ると……レトロ、という言葉しか出てこない光景だ。 「さて、動きたいが図書隊の制服のままではな。目立つし、この世界の軍と事を構えるということになりかねない」 「でも、あの和綴じ本。あれに触れたからここに、ということですよね?」 「そうだ。もっとも本に触れなければ本の整理はできないからな。今回に関しては不可抗力だ。やむを得ん」 日中の見回りをしていた翡翠が路地裏に見慣れない2人を発見し、近づいたところ和綴じ本の話をしているのが分かった。 「あの、あなたたちは稀モノをご存じなんですか?」 翡翠が2人に質問する。 「稀モノ?それって何?」 翡翠の質問に対し、何のことか分からないと質問を返す郁。 「稀モノというのは……手書きされたもので、書き手の想いや感情が非常にこもっている本です。想いや感情、またそれらの強さによっては触れた人や読者に影響を及ぼします」 「なるほど。つまり、あの和綴じ本は稀モノということか。で、俺達は稀モノの力でここにいると」 堂上が納得する。 「稀モノが関係するなら僕たちの管轄ですね。ぜひ話を聞かせてください」 「ところであなたは?」 今度は郁が質問する。 「失礼しました。僕は帝国図書情報資産管理局の翡翠です。管理局のことはみんなフクロウ、と呼んでいます」 「私は図書隊の笠原 郁」 「同じく、堂上。笠原の教官でもある」 「なるほど。それで見たこともない服装なのですね。となると……まずはお2人の服が必要でしょう。本部には女性もいるので、本部へ行きましょう」 翡翠は2人の傍に落ちていた和綴じ本を回収してからそう言った。 幸いなことに3人のいる路地裏は本部に近く、あまり人目に触れずに3人は本部へと到着。本部の入り口である玄関前の庭先にツグミがいた。 「あら翡翠。お帰りなさい。その方達は?」 「図書隊の堂上さんと笠原さん。稀モノ絡みということだったので。2人とも見たこともない服ですし、このままだと面倒なことに」 「お二人用の服を、ということ?」 「はい。ツグミさんか朱鷺宮さん、隼人か滉に服を貸してもらえればと。そのあと2人から話を聞こうと思っています」 「分かったわ。女性の方は私と来てください。男性の方は翡翠について行ってください」 「ありがとうございます」 「ありがとう。助かる」 郁と堂上は素直に礼を言って、それぞれついて行った。 郁とツグミはツグミの部屋へ向かっている。その途中。 「私は帝国図書情報資産管理局、通称フクロウの久世ツグミ。ツグミって呼んで。あなたは?」 「図書隊の笠原郁。私はどう呼んでもらってもいいわ。親友には郁って呼ばれてるけど、隊員としては名字で呼ばれてるからどっちにも抵抗ないの」 「じゃ、郁って呼ぶわね。それにしても……聞いたことないわね。図書隊って」 「信じてもらえるか分からないけど。こことは別の世界から来たのよね」 「本当?」 「あなたたちの言う、稀モノの力で気が付いたらこの世界に」 「稀モノのせいで?そんな稀モノの力、初めて聞いたわ」 「あまり大した話はできないけど、この後話をするわ」 「わかった。ね、図書隊って何をするの?」 「図書隊は、政府が気に入らない本を処分するということに対抗する武装組織。本を守るのが最大の使命」 「私達は稀モノだけが対象だけど……全ての本が対象?」 「ええ。政府との激突で今まで何人もの隊員が命を落としてる。良化隊が勝手に本を処分なんてことをしなければ、図書隊なんて必要ないのに」 「そう……」 郁から聞いたことにツグミは少しの間言葉を失った。そのままて歩くとツグミの部屋に着いた。 「予備の服を使って」 ツグミが郁にそう言った。ツグミの予備の服を着た郁は胸元の隙間感がやや気になったのであった。 一方、堂上の方は。 「堂上さん、図書隊というのはどういう組織なんですか?」 「本を守って政府と戦う武装組織、だな」 「図書隊が守る対象にする本は、特別なものだけですか?」 「そんなことはない。本であれば全てだ。小さい子向けの絵本であろうと。良化隊の連中、小さい子向けの絵本の内容でさえ、気に入らないと処分する」 「大変ですね……僕たちは稀モノだけが対象ですので、あなた達程ではないかもしれません。とはいえ、稀モノ自体が非常に珍しいので、そういう面では大変と言えるかもしれませんが」 翡翠がそんなことを言い終えるタイミングで、隼人の部屋の前に着いた。 「隼人、いる?」 「ちょっと待ってくれ」 少しすると隼人が姿を見せた。 「こちらは、稀モノ関連で来ていただいた堂上さん。隼人の服の予備を使えないかな?」 「ああ、その服のままじゃ色々問題だな。堂上さん、だっけ?合いそうなら、予備の服を使ってくれ」 「助かる」 堂上は隼人の服を着た。こちらはややキツめに感じるが、着られない程ではなかった。 郁と堂上の着替えが終わって郁と堂上・翡翠と隼人の4人が揃うと、2人の話を聞く・リラックスしてもらうという点から食堂に移動した。少し経つとフクロウの主要面々が集まった。堂上と郁が挨拶をする。いつもの紫鶴なら郁に絡みそうなものだが、どういうわけか今日は大人しい。 「さっきも言ったけど、話せることは本当に大したことないの。和綴じ本に触れて、気が付いたらこの世界にいた。それだけ」 「俺も笠原が本に触れたところ、本の数cmくらい上のところに吸い込まれそうになったのを見て、引き戻そうとしたんだが……こういう状況だ」 堂上と郁の言葉に嘘はない。 「ツグミさん。2人の傍に落ちていた和綴じ本です。念の為、間違いないか確認してもらえますか?」 「ええ」 翡翠とツグミのやりとりを堂上と郁が不思議そうに見る。 「ああ、あれは和綴じ本が稀モノかどうかを確認するということだ。久世には稀モノであるかを判別できる、稀モノ特有のアウラを見る力がある。稀モノの場合はアウラの色が見えるそうだ」 隼人が2人のやりとりを解説する。 「白いアウラが見える。稀モノね。それに内側からずっと吐き出すような感じがある。その力で2人は私達の世界に来たのかも」 ツグミが和綴じ本を稀モノと断定した。 「ってことは俺達の管轄だな。これからどうする?」 滉が疑問を口に出す。 「私達の傍に落ちていた和綴じ本のアウラは白……ってことは私達をこの時代に引っ張り込んだ本のアウラは黒だったのかしら?ブラックホールとホワイトホールみたい」 郁が呟いた。 「ホワイトホール?なんだそりゃ?」 今度は隼人が疑問を口にした。 「私達の世界で言われているブラックホールとは反対の存在ね。ブラックホールは吸い込むけれど、ホワイトホールは吐き出すの。もっともホワイトホールの存在は架空のものとされてるけど」 ここまでの様子を見ていた朱鷺宮が指示を出す。 「2人を元の世界に戻せる黒いアウラの稀モノがあるはずだ。そして2人のいる世界の側に対となる白いアウラの稀モノも。2人を戻せる黒いアウラの稀モノを全力で探し出せ」 集まった面々は指示に従って動き出した。 承 謎の集団 動き出そうとするも、手がかりになりそうなことが何もない。やや焦りを感じるような口調で隼人が呟く。 「時空を超越するような稀モノの存在を放っておくわけにはいかない」 「しかし、手がかりがない」 現状を分かっている滉が冷静に反応する。 「なら、神隠しとかその関連のものを調べてみると何か見つかる可能性は?」 堂上の言葉が食堂に広がる。 「あ、そっか。私達は、神隠しにあっている状態とも言えるってことね」 郁が納得したように口に出す。 「神隠しなら、地方の方が手がかりになるものが多いかも。でも警察の手を借りるわけには」 翡翠の言葉にツグミが思いついたように言う。 「小瑠璃ちゃんの取材同行ってことで、堂上さんと郁が一緒に地方へ行くっていうのはどうかしら?」 「なるほど。新報の取材ってことなら動きやすいだろう。取材に同行する人数としても通じそうだ」 隼人が納得と同意する。滉と翡翠も頷いて見せた。 「よし。帝都新報に連絡しておく」 隼人が連絡すると言った相手は自分の大学の先輩で、帝都新報に勤めている葦切のことだ。今回のことを隼人が説明・依頼すると、小瑠璃が神隠し事件のあった或いは伝わる地方の取材ということで飛び回れることになったのだった。 数日後。小瑠璃と、堂上・郁の顔合わせが行われ、すぐに地方取材へ出発。神隠し事件が起きていたことのある地方や地域が小瑠璃によって元々ピックアップされていたので、行先に困ることはなかった。 「時空を超越するような稀モノ、かぁ」 小瑠璃がため息とも取れるような息を吐き出す。取材を試みたものの、口を開きたがらない・口を開いても稀モノにつながりそうな内容ではないということばかりだったのだ。 「ああいうところで神隠しのことを聞くのは、心の傷を抉るということもありえる。渋るのも仕方ないかもしれない」 堂上の言葉は、小瑠璃に複雑な思いを抱かせるのだった。 「小瑠璃さん。今さっき回ったところで、小瑠璃さんが調べたところは全部回った?」 郁が雰囲気を変えようという意志を見せながら訊く。 「はい。もう帝都に戻るしかないですね」 3人は帝都に戻ると、それぞれ本部と会社に戻った。カラスでもカグツチでもない別の集団。謎の集団の動きの話がフクロウと帝都新報から聞こえてきたのだった。 「謎の集団?」 「ああ、そいつらが稀モノを使って敵を消してるらしい。神隠しのように消えてるそうだ。その敵自身もな」 郁のオウム返しのような疑問の呟きに、隼人が答える。 「つまり、黒い稀モノってことか?」 「稀モノを見てみないと何とも……それに消えるのが時空を超越することなのかも分からないわ」 堂上の疑問にはツグミが答えた。 「で、連中の次の狙いは?」 「分からない」 「狙われた人たちの共通点はないの?」 隼人と滉の言葉に対して、ツグミが自分の疑問をぶつける。 「今のところ、共通点はないですね」 「そっか……」 翡翠の回答に、郁は残念という声色で返事をした。 手詰まりと思われたが、小瑠璃が持ってきた情報は希望を見出せるものであった。 「謎の集団が狙った被害者達には、共通点があったことが分かったの。違う世界の様子を見た・違う世界の言葉を喋ったことがある人だったわ。もっともその人たちは奇人変人扱いされたみたいだけど」 「ということは、次の狙いは俺達の可能性があるな。ある意味運がいいかもしれない。何せ、帰る為の方法が転がり込んでくるってことだからな」 「前向きなのは結構だが、殺される可能性だってある。そこは分かってるのか?」 「ああ。分かっている」 堂上と滉のやりとりを見て、堂上は帰れると確信しているのを感じた郁であった。 「さて、連中にどう対応するかだが」 隼人が対応案を求める。 「堂上は『可能性』だと言ったが、俺は次の狙いが堂上達だと思う。危険だが、堂上達に囮になってもらうのはどうだ?」 滉が囮作戦を提案すると。場が少し沈黙した後に堂上と郁から了解の返事が出た。 「それだけじゃなくて、敵が出向いてくるように仕向けると精神衛生上も良さそう」 「じゃ、囮作戦は決まりだ。帝都新報を利用して、ということでいいのか?」 郁に対して隼人が言う。 「そう。例え新報の片隅でも、記事が載れば出て来ざるを得ないでしょ?」 郁の言葉に堂上は呆れてやれやれ、といった表情だ。 数日後、フクロウの準備完了期日に合わせて記事が掲載される段取りがついた。 「乗ってくるかしら?」 「多分、大丈夫。ああいう連中は食いつくって」 ツグミの心配に対し、郁の気楽に聞こえる返事。が、それは郁自身も思っていたことであり、自分自身に大丈夫という暗示をかけようとしているものでもあった。堂上が帰れるという確信を持っているのだから、共に帰る為に自分の力を完全発揮できるようにする。その為の暗示なのだ。 そして帝都新報に記事が掲載される日がやって来た。記事は単発とも連載とも取れる微妙な形である。2回目以後もあり得るように感じさせないと、食いつきが悪いだろうという判断からだった。しかし、フクロウも帝都新報も記事掲載はこの1回のみで想定している。 掲載された記事を見つけた謎の集団の長。 「フクロウも帝都新報も、こちらを誘き出すつもりか」 「長、どうされますか?」 傍にいた団員が聞いた。この団員は現場での指揮を担当する相応の位置にいる団員だ。 「乗ってやろう。この記事を出すように仕向けたのが図書隊の連中というのは想定できる」 「では、戦闘準備を」 「元の時代に帰還する為の人員と物資等以外は、総力戦で闘う」 「畏まりました」 謎の集団の準備が始まった。今回の準備は極秘裏に動く必要はない。むしろフクロウ達に動きを掴ませるよう、派手に準備を進めている。 謎の集団の準備が始まって数日後。帝都新報からフクロウに情報がもたらされた。伝えに来たのは小瑠璃、内容は「謎の集団の準備が派手に行われており、その動き方から総力戦の様相だ」ということだ。 「小瑠璃ちゃん、それ本当なの!?」 ツグミが信じられないという様子で小瑠璃に確かめた。 「本当みたい」 「敵が食いついてくれればとは思ったが、まさかこういう食いつき方とは」 隼人が予想以上の動きだったと暗に示した。 「総力戦か。都合がいいかもしれないな。俺達(こっち)と敵(あっち)、互いの勝敗も狙いも全て片が付く」 堂上は隼人の反応とは逆に、むしろ良かったと歓迎している。 「総力戦となると、こっちが戦力的には不利だな。人数やら諸々な」 滉は冷静に現状を判断した。 「総力戦なら、敵側も秘蔵の武器とかを出しているんじゃないですかね」 翡翠がそう言った。 「それをこっちが利用するってこと?秘蔵の武器があるとしても、それがどんな物か分からないんじゃ」 ツグミが心配を口にする。 「武器より、術符とかそういう類のものだと思う」 「どうしてですか?郁さん」 翡翠が尋ねた。 「これまでのことからそう思ったの。連中自身が姿を消すのは、式神みたいなのを使ってたからじゃないかって」 郁の意見を皆静かに聞いていた。今度は紫鶴が口を開く。 「式神なら、姿を似せておけば人間のように見える。で、稀モノを触れさせる役の人間が黒いアウラの稀モノを対象の人物に触れさせれば」 「そういう仕掛(からくり)か。稀モノと式神を使った合わせ技……そんなの考え付かないぜ」 隼人は納得したというか受け入れた。さらに、その発想の仕方に驚いた感じである。 「うん。敵の秘蔵のものは術符とかそういうものじゃないかって可能性はあると思う」 ツグミが郁達の言葉の内容は有り得ると言った。 「小瑠璃ちゃん、そのあたりの情報は?」 「幾つかの現場では、確かに憑代の可能性があるものが見つかってるわ」 ツグミの問いに、小瑠璃が答えた。 「憑代の可能性があるものが見つかった現場ってのが、敵がやらかした現場だろうな」 堂上が小瑠璃の答えを受けて続けた。 「よし、式神対策については朱鷺宮さんに力を借りられる人物を当たってもらおう。俺達は堂上達の警護だ」 隼人の言葉にフクロウと図書隊は頷いた。そしてツグミが小瑠璃に礼を言う。 「小瑠璃ちゃん、ありがとう」 「どういたしまして。私の方でも、何かあれば知らせるね」 「うん」 そして、小瑠璃は会社へ戻って行った。隼人は局長室へ行き、朱鷺宮に式神破りが出来る人物への依頼と背景を話した。 「分かった。当たってみよう」 「お願いします。恐らく連中との総力戦を戦い切れば、黒い稀モノが見つかると思います」 「そうか。なら、なおのこと頼まれた人物への話をつけるのが重要になるな」 「はい。失礼します」 隼人が局長室を出ると、堂上・郁・ツグミ・滉・翡翠が待っていた。 「全員で行動すれば相当目立つ。あいつらに目をつけさせるには好都合だな」 「そういうことだ」 隼人の言葉に滉が同意する。いつもとは違う警ら、即ち6人での警らが始まった。その様子に町の人間達は違和感を感じていた。人によっては、警戒や用心といった態度を明確に見せている。 「今回みたいな警らは普通は有り得ないですから、町のみなさんの反応が……」 翡翠が周りに気を配りながらそう言った。 「私達も警らって程ではないけど、町の様子を見て回ることもあるわ。町の人達の反応は大体、この町の今の人達と同じような感じも多いわね。もちろん歓迎してくれる人たちもいるけど」 郁が図書隊のことについて話した。 「ま、普通の人々からすれば『政府軍も図書隊も、戦いで自分達に迷惑をかける連中』ってのが一番有り得る認識だろうな」 堂上が郁の言葉に続けた。ただ、それ以上は言葉を続けなかった。 さらに続けたい言葉があるのは堂上の言葉と雰囲気から5人の誰もが把握出来た。ただ堂上が言わなかった言葉の内容とその重さのことを思うと、堂上が続けたであろう言葉について、安易に問えなかったのだった。 6人は警らを続けたものの、謎の集団に遭遇・襲撃されるようなことはなく、フクロウの本部に戻って来た。もう1度、先程とは違う方面に警らへ出たものの、やはり空振り。夕方と言える時間を過ぎ、夜を迎えた。6人は食堂で全員集まった。 「夜か。普通なら、夜襲の方が不意を突きやすいが……お互い動きを派手に見せているからな。ここまで何もなかったというのは、夜の方が敵の力を活かしやすい時間なのかもしれない」 滉が静かにそう言った。 「夜の方がいいってことだとすると、敵側の利点は何だろう?」 郁が疑問を呟いた。それに対し、翡翠が自分の思う利点を挙げる。 「式神が人間の姿をした時に、影がでないのを隠せるとか?」 それに続けて、隼人が言う。 「夜の方が陰陽術の力がより強まる、とかかもしれない」 隼人の言葉から思いついたとばかりに、ツグミが言う。 「黒い稀モノの力が強まるとかは?普通の黒いアウラの稀モノとは違うんだから、有り得そうでしょ」 食堂に朱鷺宮が現れる。なぜか小瑠璃も一緒に。 「朱鷺宮さん、どうでした?」 隼人が尋ねたが、朱鷺宮は首を横に振った。 「何か、あったんですか?」 ツグミは残念さを強く感じたのか、言葉が出て来ないようだ。それに対し、郁は冷静に朱鷺宮へ聞いた。 「私の心当たり以外にも、帝都新報に協力してもらったんだが。全て失敗だった」 朱鷺宮が説明と結果の再表明をした。 「何か、敵が式神破りを出来そうな人物を先回りして殺したみたいなの」 ツグミが補足するように話した。 「昼間に敵が来なかったのはそれが理由か。となると、今は敵にとって俺達だけに集中できる状況になってるってことだな」 「先程、夜の方が陰陽術が強くなるのでは、と言っていたな。確かに夜の方が力を発揮する陰陽術もあると聞いたことがある。今夜がヤマだろう。気を引き締めて対応を続けてくれ」 「はい!」 6人の返事を聞き、朱鷺宮は局長室へ戻った。小瑠璃はまだ食堂にいる。 「式神破りが出来ないとなると、敵の方が圧倒的に有利だな」 堂上がどう対策するか?という意味を込めてそう言った。その次に口を開いたのは小瑠璃だった。 「式神を操る場合、基本的に式神へ術者の力を送れる範囲にいるって聞いたの。いくつかの取材先で。だから、術者を特定できる方法があれば、少しは対策になるんじゃないかしら」 「……私のアウラを見る力で、式神を見たらアウラが見えるかも。術符も1頁しかないすごく特殊な稀モノって考えられなくないかしら?」 後に同僚である隠(なばり)から同じようなことを言われるのをツグミはまだ知らない。 さらにツグミが話を続ける。 「もしアウラが見えたなら、そのアウラを辿れば術者特定に繋がる。特定できた術者へ対応すれば」 ツグミの言った判定と対応の方法に反対は出なかった。というか、出しようもない。 「よし、久世の言った判定方法で術者を特定しよう。万が一、敵の中に術者がいなくても、アウラを追えば大丈夫だろう。一番問題なのはアウラが見えなかった時だ」 「多分アウラが見えないってことはないと思う。式神に使う術符は、作る時に術者の念が込められるから。もし術者の念を入れずに術符作れたとしても、式神が思い通りに操れるかどうからしいわ」 小瑠璃が一番の懸念点に対して答えた。 「ツグミ、アウラの糸を一度に把握できるのはどのくらいの人数?」 郁がツグミに尋ねた。 「分からない。今まで稀モノのアウラを一度に見たのは1冊、2冊だったもの」 ツグミは郁に答える。今度は滉が言った。 「アウラの糸がくっついているのを見極めて、教えてくれればいい。それが分かれば現場での戦い方はあるはずだ」 さらに堂上が言った。 「だな。それと、どの程度役に立つか分からないが……マッチをある程度持っておくのはどうだ?式神の憑代が紙なら、アウラの糸を追う前に燃やせば、目の前の敵に関しては解消できる。ただ、式神をあやつる術者が特定できなくなるというのが困ったところだ」 堂上は1長1短の「燃やす」という対応方法を提案した。 「マッチか……普段、俺達が使わない物だ。とても他に融通してもらえるもんじゃない。持ってるやつはどのくらいだ?」 隼人の確認に対して、集まっている6人の誰も持っているのはいなかった。そこで小瑠璃に隼人の先輩の葦切にマッチをある程度融通するよう依頼した。 「先輩に頼んでおくね」 小瑠璃は急いで社に戻って行った。 「よし、もう1度出るぞ。今度は敵が食いついてくるはずだ」 隼人の言葉で、6人は3度警らを行うのだった。 転 黒いアウラの稀モノ 昼とは雰囲気が違う夜の町。敵にも都合がいいと思ってしまう程だ。 「夜に警らってほとんどしたことないけど、こんなに雰囲気が違うんだ」 「俺は、夜出かける時私服で出かけるからな。制服で出かけるのは新鮮だ」 翡翠と隼人がそんなことを言っている。 ガス灯と電灯が両方とも存在するような時代の町。こんな町の様子を見ることが出来るのは、この世界に来た堂上と郁だけの特権と言って良い。 「こんな風景を見られるなんて」 警らであるというのを忘れていそうな呟きを漏らす郁。 「確かにこんな時代を見られるなんてのは、俺達だけだが。気を取られ過ぎるな」 堂上が郁をたしなめる。そんなことがありつつも警らで行く先を回っていく。灯りが少ない地域に入って、少しした時。謎の集団と出くわした。 「長の邪魔となる連中は始末する!」 謎の集団の末端構成員の1人が、鬱陶しい存在のくせにとばかりに吐き捨てる。他にも末端構成員達が息巻いている。そんな集団の中から1人の人物が、6人の前に姿を見せる。 敵の動きと緊張の様子からすると、明らかに敵の長といった者なのは明白。そして、謎の集団の長が団員達を鎮める為の手の動きを見せた。 謎の集団と6人とが静かに対峙している。 「お前達は、俺達と同じように異なる世界から来たということだな?そうでなければ、異世界の様子や異世界の言葉を話した人間を始末する理由にはならないだろう。それにこの世界にあまりにも突然現れた点も納得できる」 敵の長に対して堂上が放った言葉は正しかったようだ。微妙にではあるが、長は反応を示した。 「お前達2人がこの世界に来たのは我等と違う。『本を守る』ということ・それに対する気持ちの波長がフクロウの連中と同じだからだ」 堂上も郁も集団の長の言葉にとても納得できた。 「でも……稀モノの力を悪用して、あちこちの世界で好き勝手してる連中を許すわけない」 戦う意志が明確に取れる郁の言葉。銃は持っていないが、最低限の体術は身に付けている。 「我等の世界は昭和から先の時代に、平和な時代だからこその発展を遂げた。だが、その平和は過剰な平和ボケをもたらしてしまった。今の我等の時代は、複数の国の傀儡となった政権が先導している。つまり日本は存在しているが存在していないのだ。これが何を意味するかは分かるだろう、図書隊共」 「その平和ボケをもたらしたのは、本を守ったこと・表現の自由の保護が悪いってことか?筋違いもここまでくれば、天然記念物モノだな」 堂上が怒りと苛立ちを顕に、吐き捨てるように言葉をぶつけた。 「合っているのは半分だ。平和な時代の中で、いわゆるタイムマシンに近いものができた。当然、自分達の選択で最も良い未来を選べるように過去改変をというわけだが、そうは問屋がおろさなかった」 ツグミを始めとしたフクロウの面々はこの会話の意味が全く理解できなかった。ツグミが誰に問うでもなく呟いた。「どういうことなのか」と。郁が会話を理解するための概要と重要な言葉を説明した。 「それじゃ、郁やあいつらの未来って、私達の時代からずっと後に分岐した日本ってこと?」 「うん。そう。その証拠にこれ」 郁がポケットからスマホを取り出して見せた。この時代にはありえない物。だからこそ、フクロウに見つからないよう意図的に隠していたのに、だ。 「これは?」 「スマートフォンっていうもの。要は個人向けの情報端末ね。仕組上、この時代では使えないけど」 ツグミの質問に郁が答えてから、ポケットに戻した。 「こんな小さいもので、情報のやりとりができるのか。未来には」 隼人は驚きの言葉が思わず出てしまった。 「私達の時代では、これが普及しているけど。あいつらの時代だと、多分これはおもちゃくらいなんだと思う。タイムマシンのようなものが出来た、なんて言ってるんだから」 「なるほど。こういうことか。あいつらの時代に起きたことは『本の保護』が原因。そのタイムマシンとか言うものを使ってあいつらの時代の過去改変する為の過程で、図書隊と俺達のことを知った。そして図書隊に影響を及ぼすことになるであろう俺達を潰すことでやつらの未来を良い方向に持っていく、と」 滉が自分の把握した内容を口にした。 「そういうので大体あってると思う。過去改変なんてされたら、他の国にしたらたまったもんじゃないだろうしね」 郁は滉の言ったことを肯定した。 「図書隊、そしてフクロウども。お前達を蹴散らし、目的を成就してみせる!」 静かな、そして長の意思がはっきりと込められた言葉。 「俺達がぶっ潰す」 堂上が1番早く長の言葉へ反応した。 「みんな、ツグミは私が守る。あいつらを!」 郁がそう言ったのを合図とばかりに、闘いが始まった。ツグミが闘いの様子を見ながら、アウラの糸が見える相手を特定して闘っている4人に伝えていく。途中、ツグミを狙ってくる敵には郁が対応し跳ね除けていた。そんな闘いが少しの間続く。しかし、6人では敵を相手にできる人数にも限度がある。徐々に不利になって行く6人。そこへ葦切が現れた。 「頼まれてたマッチだ」 葦切が調達したマッチ箱を4人に向けて投げ、4人はマッチ箱を受け取った。 「式神を燃やせば、術者にもそれなりに反動があるって話だ。燃やしちまえ!」 4人は葦切の情報を聞き、敵を出来るだけ囲むように闘っていく。4人では囲むのに限度があるものの、どうにか式神は全て囲い込めた。 4人が、それぞれのマッチ箱の中のマッチ全てに火をつけて、式神に向かって投げつけた。 マッチなので燃えているのは短時間。その短時間で全ての式神を燃やし尽くせるかは、多分に賭けだったが、その賭けには勝った。4人の持っていたマッチの最後の1本が燃え尽きるギリギリで全ての式神が燃え尽き、憑代である術符の灰が散乱したのだ。当然、式神を操っていた術者にも反動でダメージがある。謎の集団の式神はしばらく使えないと判断していい。 「式神は、すぐには出て来れないはずだ。残りの敵を叩くぞ!」 堂上が宣言する。 「式神がいなくとも!」 現場指揮官が末端の人間と共に、戦闘担当の4人へ向かってくる。式神がいなくなった今、敵の人数は限られている。4人でも十分対応可能な人数だが、1人1人がそれなりに強い。敵の長に辿り着くまでに時間がかかり、逃してしまう可能性が見え始める。もし逃してしまえば、また敵の人員が補充されるだろう。そうなれば、神隠し事件が再度続き、最終的には敵の目的が達成されてしまう。そんなことはさせないとばかりに、勢い込んだ郁がツグミの傍を離れ敵の長へと向かっていく。4人が長以外の敵を囲んでいるのを利用しない手はない。 「長!」 敵の現場指揮官が長を気に掛ける。そこに僅かな隙が生まれ、4人が長以外の敵を捕らえるのに成功した。 「くそぅっ!」 指揮官を始め、捕らえた敵全員が抗う気満々である。 「お前達はそのまま大人しくしていろ」 長が、捕まった者達に指示を出す。すると……あれだけ抗う気満々だったのが嘘の様に、捕まった者達は大人しくなった。これに違和感を感じたのは翡翠である。 「いくら指示があったとはいえ……用心してください」 翡翠が用心を促す。それは当たっていた。 長は懐からあるものを取り出した。それが何かを気づく前に触れさせようとする長。 郁は直感で危機を感じ取り、長の右側へとすり抜けた。 「勘がいい。そういう勘が働くのは運のある者の証拠だ」 「持っているそれ。和綴じ本よね?つまり稀モノ」 「そうだ。図書隊であるお前達が求めている稀モノだ」 「本当なの?」 郁と長の会話を聞いたツグミが長の持っている稀モノのアウラを見分ける。 「黒いアウラ。それも全てを吸い込んでいるような」 ツグミの判定結果はある1点に繋がることを意味する。 「ってことはあの稀モノを手に入れれば万事解決だな。堂上、翡翠。そいつらを頼む」 隼人がそう言って、郁の援護に向かう。 「俺も手伝うぜ」 滉も郁の援護に向かって、隼人共に郁と合流した。 3対1の闘いになったにも関わらず、長には焦りを始めとした負の感情・反応の類はない。至って冷静である。 「この和綴じ本を奪えればお前達の勝ちだ。それは有り得ないがな」 そう言ってから、黒いアウラの稀モノを自らの後ろに放り投げた。その後、新たに懐から稀モノ2冊と術符1枚を出した。術符は長が自分で式神を使役する為のものだ。自らの念と血で、術符を自分と瓜2つに変えた。 「これで3対2。新たに出した稀モノ2つの力を取り込めば、お前達の相手をするのは十分可能だ」 「そんなことをしたら、死んでしまうわ!」 ツグミが長の命を心配する。 「我等は稀モノの力をうまく取り込む方法を持っている」 その言葉通り、2つの稀モノの力を取んだことを示すデモンストレーションを長が示して見せた。 「何て速さと攻撃だ」 3人ともそう思った。 「1つ試してみたいことがあるんだけど。あいつが私の正面に向かってくるしかないようにしてもらえる?」 郁が2人に確認すると、2人とも分かったという返事をした。 隼人は術符が変化した方の長、滉は本物の方をメインに仕掛ける。郁はというと、2人の様子を見ながら、ポケットの中のスマホを引っ張り出した。使うはカメラ機能のフラッシュだ。 隼人と滉がどうにか立ち回り、本物の長が郁の正面にしか行かないように仕向けることに成功した。 「2人ともありがと!」 郁がカメラのフラッシュで、目くらましを仕掛けた。当然、長はフラッシュの影響でモロに目がくらんだ。隼人と滉も巻き添えだ。 「俺達まで巻き添えかよ」 隼人の文句を受け流しながら、長の後ろに放り投げられた黒いアウラの稀モノへ一目散に走る郁。無事に黒いアウラの稀モノを手に入れた。稀モノを掲げて示した後、抱える郁。身に付けている体術でもって本物の長を地面に倒し、簡易的に縛って拘束した。持っていたハンカチで手首を、首元のリボンをで長の足首をという形だ。これなら、逃げられることも安易な悪あがきも出来ない。当然、先に捕まっていた連中も長がこうなっては完全に抗う気はなかった。つまり、堂上と翡翠は見張る必要がなくなり、自由に動けるということだ。 「後はそいつだけ!」 郁が叫ぶ。術符が変化した方の長は目くらましなど効くわけもない。堂上と翡翠が、術符の変化した長へ向かっていく。翡翠が適度な距離で攻撃をかわして引きつける。そこへ堂上が攻撃を入れるが、手応えが今1つ。 「やはり燃やさないと駄目か!」 堂上がイラつく寸前の感じで言う。 「おらよ!俺が持ってるマッチだ!」 自分が使う分で持っていたマッチを葦切が堂上へ向かって投げつける。堂上はマッチを受け取り、使えるマッチの本数を確認する。使えるマッチの数は1本だけだ。翡翠が引きつけるだけでは、マッチで燃やす隙を作り出すのはなかなか骨だ。郁も引きつけに加わるが、翡翠だけに比べればマシになったという感じでしかない。 そんな状況が少し続いた時。隼人と滉が目くらましから回復した。2人も加わり、4人で引きつけ、堂上がマッチを使える瞬間を作り出す。 「燃えろ!」 堂上が火のついたマッチを投げつける。擦られたマッチの火がついているわずかな時間の間に、術符の変化した長へマッチの火が燃え移った。術符の変化した長は燃えて灰となり消えた。本物の長の方は術符消失の反動で吐血を伴う負傷となった。 「敵を全員確保!」 堂上が宣言する。 しかし、これでは終わらなかった。長が最後の抵抗として、最後の最後で隠し持っていた術符を使った為だ。何が起きたのか。それは謎の集団全員が自らの命を落としたこと。つまりは自殺用に造られた術符を、謎の集団全員を対象に使ったのだ。6人全員で、集団の死体を確認する。やはり誰も生きていない。一方、謎の集団のアジトに残された面々。長達の様子を遠隔監視していたが、全員の生命反応がなくなったのを確認すると元の時代に戻って行った。 「こんな術符を持ってたなんて」 ツグミはそれしか、言葉が出なかった。 「あいつらの持ち物で、俺達の時代に帰れそうなものはないな」 堂上が死体の持ち物を改めて確認して、そう言った。 「やっぱり、黒い稀モノしか帰る手段がない?」 郁が呟く。こちらの時代に来た時は、稀モノに触れただけで力が発動した。にも関わらず、今持っている稀モノはどういうわけか何も力を発していない。 「堂上達は死体を目の前にして、落ち着いているな」 隼人が感心した。 「図書隊は武装組織だ。敵が死ぬことも味方が死ぬこともある。それを分かった上で、作戦を完遂するように動く訓練をしている」 堂上が隼人へ、そう返した。 「死体の処理は警察に任せていいのかな?」 郁は泣く寸前の声でフクロウの面々に尋ねた。ツグミが頷いて、郁に返事をした。 「久世。堂上達と先に本部へ戻ってくれ。俺達が警察に対応する」 「おっと、俺も付き合うぜ。面白いネタだからな」 隼人と葦切の言葉を受け入れ、ツグミ・堂上・郁の3人が本部へと戻ってきた。 その足で、猿子(マシコ)の元に向かう。出張していたが、もう戻って来ているはずだからだ。猿子を見つけ、これまでのことを説明。稀モノの力が発動していない・発動させたいということを話した。ちなみに隠も出張中で、まだ戻ってくる予定にはなっていない。 「興味深い。調べてみよう」 猿子がそう返事をしたので、郁が稀モノを預けた。ツグミはそのまま「お願いします」と頼み、局長室で朱鷺宮に報告。その後、食堂へ3人は移動した。 食堂で1休みしようと席につこうとした時、隼人達が戻ってきた。3人の他、葦切と小瑠璃もいる。警察との対応が終わって4人で戻ってくる途中、小瑠璃も一緒に来たのだと言う。 葦切と滉は立ったまま、他の6人は席に着いた。 「猿子さんに任せるしかないですね。でも、稀モノなのに、力が発動しないなんて変わってますね」 翡翠が不思議なことだと珍しがっている。 「別に変ってなくはないと思うよ」 急に現れた紫鶴が翡翠の言葉にそう返し、さらに続けた。 「その稀モノ、あいつらが持ってたんでしょ。ひょいひょい力が発動されたら困りもの。そうならないように細工してあるんじゃない?」 紫鶴の意見に「確かにその可能性はある」と場の誰もが納得した。この稀モノの件を始め、色々なことを話すことになって、9人でのお茶会のような様相を呈し始めた。この雰囲気が続くかと思われたが、猿子が現れた。 「細工はされていたが、あいつらがやったものではなかったね。この稀モノの作者自身が細工したと内容に記されていた」 猿子の言葉を、皆静かに聞いている。 「で、その細工っていうのは?」 今度は朱鷺宮が現れて猿子に尋ねると、猿子はこんなことを答えた。 「正午の太陽の光、午前0時の月の光を稀モノに当てればいい」 場にいる誰もが時間を気にした。時計は午前0時を数分程過ぎている。 朱鷺宮が稀モノへ光を当てるのを明日行うよう指示した。堂上と郁を見送る会として、1時間程軽い酒盛りが行われた。お開きとなり、解散した後はそれぞれ朝を迎えた。郁は、解散する時に稀モノを猿子から受け取ったのだった。 結 図書隊、帰還す 午前中、正午まではあと少し。食堂の席に座った郁は思い返して、考えていた。保管庫にあった稀モノは、何故力を発動できたのか。今回フクロウが手にした稀モノと同じ作者のものなのだろうかと。しかし、答えが出るはずもない。 「考え事か?」 堂上が郁に声をかけた。 郁の返事を待たずに「そろそろ時間だ、準備しろ」と促した。堂上を始め、ツグミ・隼人・滉・翡翠・紫鶴・朱鷺宮はもう準備を済ませている。さらに、葦切と小瑠璃もやって来た。 郁が稀モノを正午の光に当てる準備を済ませるとちょうど正午寸前だった。急いで外に出て、稀モノを太陽に向かって掲げる。掲げたままほんの少し時間が経つと、ちょうど正午になった。稀モノが正午の太陽の光を受けたことになる。ツグミがこの稀モノを確認すると……黒いアウラが少し見えるようになったが、まだ何かを引き起こすような強いアウラではないと言った。 「よし、後は月の光ね」 図書隊の仲間の元に戻れる嬉しさだけではなく、どこか寂しく思っていると感じる郁。それを察したのか、ツグミが抱き着いた。 「郁!」 「ありがとう、ツグミ。フクロウの皆のおかげで帰れる」 堂上はその様子を静かに見ていた。 夜、午前0時前。昼間とは違い、場にいる人数は少ない。紫鶴・朱鷺宮・葦切・小瑠璃は仕事の都合で参加できないからだ。いるのは堂上と郁以外は4人。ツグミ・隼人・滉・翡翠だけだ。そして違うのはもう1つ。昼間とは違い、郁の準備が既にできており稀モノを午前0時の月の光に当てればいいだけの状態になっていることだ。 「ありがとう、みんな」 「協力、感謝する」 郁と堂上がそれぞれ自分の気持ちを口にした。フクロウの4人は思い思いの言葉と表情で返す。 そして午前0時を迎えるほんの少し前に、郁が稀モノを月に向かって掲げる。そして時間が経つと、稀モノが午前0時の月の光を浴びた。 「稀モノのアウラがすごく強くなった!それにもう1種類、白いアウラ?」 強く黒いアウラが郁を吸い込み始める。吸い込まれる郁を掴み、堂上もアウラに吸い込まれて姿を消した。さらに、ツグミが見た白いアウラは、これまでのことをなかったことにしていた。図書隊や謎の集団のことと言った今回の件に関わる全て、記憶を含めて。 「私達、何でここに?」 「いいんじゃないか、月見っていうのも」 ツグミの疑問は無視とばかりに、隼人が思ったことを口にした。 「俺は寝る」「何だか、妙に疲れが残っている感じがするので、僕も寝ます」 滉と翡翠は寝ると言って、自分の部屋に戻って行った。 一方、郁と堂上の2人は無事に正化の世界、つまり自分達の世界に戻ってきた。保管庫の床には和綴じ本が落ちている。この和綴じ本は郁と堂上を吸い込んだ黒いアウラを持つ稀モノではなく、白いアウラを持つ稀モノである。 郁も堂上も何か苦労した覚えがあるような気と、この場にいることに安堵と喜びを何故か感じる。 フクロウのいた世界で帰るために使った稀モノ。その稀モノの持っていた白いアウラの力で、フクロウのいた世界に行ったこと・元に戻るために動いていた記憶や思いは消えていたのだが、それを知る由もない。 安堵と喜びを感じる中、2人は鳥の鳴き声に気が付いた。その鳥はつぐみ。その鳴く様は2人を祝福しているかのように聞こえたのであった。 図書隊の敵である良化隊側。稀モノのことを把握しており、稀モノを利用した狂化兵を作って戦闘に活用する計画が進行していたものの、最終的には計画が頓挫。実戦投入されることはなかったのだった。 参考資料 ニル・アドミラリの天秤キャラ名確認 http://s.mxtv.jp/anime/nilad/#page_staff 図書館戦争 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E6%88%A6%E4%BA%89 |